女「もっとはっきり言ってもらっていいですか?
わたしにはあなたがなにを言いたいのか、全然わかりません」
男「すべての人が勝手に信じてることへの疑問ですよ」
男「タヒんで幽霊になる。まあこれはいいでしょう。問題はその次です」
男「幽霊になったら、ほかの幽霊も見える」
男「生きてたときに見えなかったものが、タヒんだら見えるようになる」
男「どうしてそんなふうに、人々は思いこんでるんでしょうか?」
女「幽霊になっても、幽霊は見えない……」
男「不思議ですよねえ」
男「幽霊を信じない人はいます」
男「ですが、タヒんだら幽霊が見えるということについては、疑う人いないんですよ」
女「だからなんだって言うんですか?」
女「そんなおどしで、わたしが自禾殳するのをやめるとでも?」
男「同じことを言わせないでくださいよ。
僕にはあなたをどうこうする資格はありませんって」
男「ただ転がらない疑問を転がしてみただけです」
女「あなたの疑問なんてどうでもいいんですよ」
男「いいんですか?」
女「同じことを言わせないでください」
男「あっ、マネした」
女「あなたが先にわたしのマネをしたんです」
男「じゃああなたは、べつの誰かのマネをしたんですよ」
女「そうかもしれませんね」
男「それに、あなたにとっては重要な疑問だと思ったから言ったんですよ」
男「これからタヒぬ人にとっては、考えるべきことじゃありません?」
女「タヒんでからのことなんて、やっぱりどうでもいいです」
男「では、生きてるあいだのことについて考えましょうよ」
女「そうですね……って、なにまた話を続けようとしてるんですか!?」
男「まあまあ。こうして僕と話しているうちは、あなたは抱かれることはありませんよ?」
女「はあ……言われたことありませんか?」
男「なにをですか?」
女「しつこいって」
男「……」
女「すごいまじめな顔して考えてますね。こころあたりがありすぎるんですね」
男「いいえ。あなたがはじめてです」
女「嘘はいりません」
男「ホントなのになあ」
女「はいはい。それで、なんの話をしてたんでしたっけ?」
男「あれれ? 話す気になったんですか?」
女「あなたが、はなしてくれませんからね」
男「ちょいちょいびみょうなことを言いますよね、あなた」
女「うっさい。話すなら話してください。タヒにますよ?」
男「はいはい、わかりましたよ」
女「……」
男「どうして人は、タヒぬことをコワイと思うんでしょうか?」
女「知りません」
男「少しは考えましょうよ」
女「本能」
男「本能、ですか」
女「タヒを恐れるのは人間だけないですよね」
女「動物とかは、本能的に生きようとしますし」
男「あなたってロマンがないですよね」
女「嬉しそうに言わないでください」
男「僕、女の人ってもっとキラキラしてるのかと思ってました」
女「これからタヒぬって人間が、目をかがやかせてロマンチックなことを言うとでも?」
男「あはは、たしかに」
女「じゃあロマンのあるタヒを恐れる理由ってなんなんですか?」
男「ロマンチックかどうかはわかりません」
男「ですが、疑問に思うことをやめるのってタヒんでるのと同じことだと思うんですよ」
女「一理あるかもしれませんね」
男「謎や疑問は、いくらでも日常にあふれてると思うんです」
女「そう思って生きることができたら、楽しいでしょうね」
男「ええ、きっとね」
女「……あなたって鈍感ですよね」
男「え? なんだって?」
女「絶対聞こえてましたよね」
女「ていうか、話が進みませんね」
女「あなたの考えを教えてください」
男「わかりましたよ」
男「タヒんだことがない人間が、どうしてタヒをコワイと思うのか」
男「実は僕たちは、タヒぬことじたいはそれほど恐れてはいないんじゃないでしょうか」
女「じゃあなにを恐れてるんですか?」
男「タヒんだあとのことですよ」
男「実は僕たちは、なんとなく知ってるんじゃないでしょうか?」
男「タヒんだそのあとのことを」
女「タヒんだそのあと?」
男「ええ。その先にあるものを、僕たちはおぼろげに知っている」
男「生きてるより、ずっとつらいことがタヒんでから待ち受けている」
女「笑えないですね」
男「笑えないですよ。生きてるのがイヤになって自禾殳したら」
男「生きてるよりつらいことが待ち受けていた、なんてねえ」
女「すごいニコニコしながら言いますね」
男「たぶん最初からじゃないですか」
女「ええ。わたしと話していてここまでニコニコしてる人は、あなたがはじめてです」
男「やだなあ、照れるなあ」
女「そして、ここまで人と話してイライラしたのもはじめてです」
女「知ったふうな口をきく人がきらいなんです、わたし」
男「ああ、わかりますよそれ」
女「あなたのことなんですけどね!」
男「言われなくても知ってますって」
女「あなたのような人は、わたしみたいな人間にとって一番イヤなんですよ」