男「自禾殳をする人間からしたら、それを止める人間はタヒ神みたいなものですもんね」
女「……しかも上から目線で、わかりきったことを延々と言ってきますからね」
男「現実から逃げようとしてるのに、現実を突きつけて引きとめようとしますからね」
女「あなたみたいな人、本当にきらいです」
女「ささいなことをとりあげて、ネチネチと言ってくる人間ってムカつきます」
女「上からあわれみの視線を送ってくる人もきらい」
女「親切とお節介をはきちがえてる人とか最低です」
男「自分のことは?」
女「……考えたくもないです」
男「僕のことは?」
女「よくこの流れでそれをぶちこんできますね」
女「あなたのこともきらいです」
男「どうして!? なんで!?」
女「疑問に思う部分じゃないでしょうそこは!」
女「すべての人間がきらいです」
女「わたしより幸せそうに生きてる人も」
女「わたしよりも不幸なのに生きてる人間も」
女「生きてる人間なんてきらい」
男「じゃあ僕のことはきらいじゃないってことですね」
女「……え?」
男「だって今言ったじゃないですか」
男「『生きてる人間なんてきらい』って」
女「つまらない冗談ですね。これっぽっちも笑えません」
男「冗談じゃなくても、笑えませんね」
女「今さら霊能力に開花されても困ります」
男「最近は嘘に敏感な世の中ですからね。きっとインチキ霊能力者って呼ばれますよ」
女「それで幽霊についての本を書いたら、ゴーストライターって言われるんですね」
男「ますますタヒにたくなりそうですね」
女「……それに、そういう嘘をつくならもっと事前に準備しておくべきですね」
男「準備?」
女「あなた、屋上で管理人さんと会ったとき、わざわざ隠れたじゃないですか」
男「そうですね」
女「見えないなら、わざわざ隠れる必要なんて……」
男「どうしましたか?」
女「……」
女「そう、隠れたんですよね。一回目管理人さんに会ったときは」
男「……」
女「でも、二回目会ったときは、あなたは隠れていなかった」
女「でも管理人さんは」
管理人『物騒な世の中ですから、夜道には気をつけてください』
女「男女ふたりでいるなら、そんなことは言わない……?」
男「あなたが気づいていなかっただけで、僕はこっそり隠れたかもしれませんよ」
女「……でも、あなたはマックでなにも食べなかった」
女「そして席とりもしなかった」
女「じゃあ、あの店内で感じた視線って……」
男「気づいちゃいましたか」
女「え? ちょ、ちょっと待ってください。
わたし、周りから見たらずっとひとりで話してたってこと?」
男「だから言ったじゃないですか。早く食べて店から出ましょうって」
女「あの流れでわかるわけないです!」
男「あらら、大丈夫ですか? 今まで一番すごい顔してますよ」
女「恥の多い生涯を送って来たって自覚はあるけど……うぅ……」
女「いえ、待ってください」
男「まだなにか言いたいことでも?」
女「あなたが幽霊なら、触れることはできませんよね?」
男「さあ? どうでしょう? 案外そんなこともないかもしれません」
女「……」
男「あの、目つきがコワイんですけ……どおぉっ!?」
女「わわっ……ほ、本当にスケスケだ……!」
男「いや、なんで殴ったんですか? 生きてたら鼻が曲がってるとこでしたよ」
女「……なんとなくです。ていうか瑣末なことはどうでもいいです」
男「けっこう重要だと思うんですけどね」
女「ていうか、なんで最初に教えてくれなかったんですか?」
女「おかげで恥をかいたじゃないですか」
男「いいじゃないですか。どうせ結末は見えてるんだから」
女「そういう問題じゃないです」
男「やはりいろいろと難しい人ですね、あなたは」
女「いいからわたしの質問に答えてください」
男「いやあ、単純に信じないだろうなって思って」
男「自己紹介でいきなり幽霊だって言って、信じますか?」
女「まずあなたは、わたしに素人童貞ってことしか教えてません」
男「あはは、これはうっかり」
男「でもやっぱり自己紹介をしても、絶対にあなたは信じなかったでしょう?」
女「それか間違いありません」
女「でも管理人さんが屋上に来た段階で、説明はできたはずですよね?」
男「あそこらへんはテンションあがっちゃって……思わず自分が生きてると錯覚しちゃったんですよ」
女「タヒんでるのにテンションあがっちゃうんですね」
男「僕の場合はね。ほかの人は知りません」
女「……でも、どうしてわたしにはあなたが見えるんですか?」
男「それについては本当にわかりません」
女「本当に?」
男「命をかけてもいいですよ?」
女「バカ」
男「僕もこんなことははじめてなんです」
女「こんなこと?」
男「タヒんでから、人と話すのが」