【疑念】
太いエンジン音を響かせて、タンクローリーは走り去って行った。
ドラえもん「良い人だったね。」
出木杉「・・・うん。」
確かにそうだ。
もしも暴力的な人だったり、法外な賠償金を請求される人だったらと考えると、ゾッとする。
運が良かった。
あ、そうだ。
運が良かったと言えば・・・・・・
出木杉「ドラえもん、どうしてここにいるの?」
ドラえもん「うん、今日はミーちゃんとデートだったんだけど、月が綺麗だったからね。タケコプターでのんびり帰ろうと思ったんだ。」
ドラえもん「そしたら、君が轢かれそうになってるのを目撃してね。慌てて急降下したんだよ。」
デート。
その言葉を聞いて、嫌な記憶が蘇った。
ほんのついさっき、別の男と手を繋いでいた、初恋の人。
出木杉「そうか・・・・・・ありがとう。助けてくれて。」
ドラえもん「良いよ良いよ。無事で何よりさ。ところで出木杉くん、こんな時間にどうしたの?」
出木杉「えっ?」
ドラえもん「今もう夜の9時だよ。こんな時間に一人で出歩くなんて、君らしくないなと思って。」
出木杉「それは・・・・・・」
ドラえもん「カバンでも持ってれば塾の帰りかなって思うトコロだけど、手ぶらだし。」
出木杉「その・・・・・・」
ドラえもん「もしかして、家出?」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「なんてね。のび太くんじゃあるまいしね。はははっ。」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「はは・・・・・・」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「・・・・・・。」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「・・・・・・出木杉くん?」
ふと、僕の中でドス黒い疑念が湧き起こった。
なぜのび太くんがしずかちゃんと付き合うに至ったのか。
なぜしずかちゃんはのび太くんを受け入れたのか。
世の中には異性の心を意のままに誘導できる、いわゆる恋愛の達人と呼ばれる人々がいる。
だが、それはごく一部だ。
極めてマイノリティであるが故に、達人と呼ばれるのだ。
じゃあ、のび太くんはどうだ?
小・中学校を共に過ごしてきたが、彼の浮いた話なんて、ついぞ聞いた事がない。
そもそも、達人と呼ばれる人々は、往々にして恋愛に対して努力を積み重ねてきたが故にそれだけの手腕を持ち得るんだ。
何の努力も無しに意中の相手を振り向かせられれば世話はない。
それを可能とする道具が存在するなら、誰もが欲するところだろう。
だが、未来の世界になら存在する。
そして、いま僕の目の前にいるこのロボットは・・・・・・
ドラえもん「もしかして、ホントに家出したの?」
出木杉「・・・・・・うん。」
ドラえもん「何かあったの? 僕で良かったら相談に乗るよ?」
僕は是が非でも、事の真相を問いただしてみたくなった。
というか、問いたださずにはいられない衝動に駆られた。
出木杉「聞いてもらえるかい?」
ドラえもん「うん、もちろん。僕なんかが君の力になれるか分からないけどね。」
出木杉「ありがとう。じゃあ、場所を変えよう。」
ドラえもん「分かった。」
そう言うとドラえもんは、四次元ポケットからどこでもドアを取り出した。