「煙草、吸うんだね。意外だな」と僕が言うと、
僕のかつての恋人は、困ったような顔で笑った。
「彼にも秘密にしてるんだ。今の所、君しか知らない」
僕はその言葉を脳に刻みつけたね。
”君しか知らない”。実に心地よい響きだよ。
辺りが真っ暗になって、彼女は帰って行った。
僕はしばらく、彼女との会話の余韻に浸っていたな。
止まらない体の震えは寒さによるものなのか、
興奮によるものなのかは、分かんなかった。
こんなんで喜べるなんて、エコの極みだよね。
それに、このとき僕はまだ、自分のしている
致命的な勘違いには気づいていないんだ。
妹はすでに車で待機していて、僕が戻ると、
「五分の遅刻」と頭を五回たたいてきた。
一時間遅刻したら大変なことになってたと思うよ。
図書館を出てからしばらくして、妹が言った。
「おにいちゃん、さっきの女の人、仲良いの?」
「いや。僕と口をきいてくれるくらい、あの子が優しいってだけ」
「ふうん。じゃあ、私も優しいね。口きくから」
「違うな。僕たちは単に仲が良いんだよ」
「ええ、そうなの?」と妹は迷惑そうに言った。
街路樹や店先にイルミネーションが灯り、
いたるところでクリスマスソングが流れ、
駅前には巨大なモミの木が設置され、
いよいよクリスマスが近づいてきていた。