何ていうかさ、「やり直しにおける失敗」の
スペシャリストである僕から言わせるとね、
二周目で失敗した人間に特有の感情があるんだ。
隣にいる女の子から、僕はそれを感じ取ったんだよ。
そんでさ――これについては最初から
説明しておくべきだったんだろうけどさ、
実を言うと、僕が持つ一周目の記憶には、
いくらか致命的な欠陥があったんだ。
それは、「思い出し方に制限がかかっている」ってこと。
自分はこういう特徴の人間とこういう関係がある、
みたいなことはしっかり覚えてたんだけど、
実際の名前、顔、声みたいな具体的情報は、
いくら思い出そうとしてもはっきりしなかったんだ。
「表情が豊か」とか「日焼けしている」とか、
「大人しそうな名前」とか「目つきが悪い」とか、
そういう風には思い出せるのに、だよ。
でも、二周目の僕は、そのことを軽視していたんだ。
一周目の再現をするだけの二周目においては、
記憶に制限があっても、さほど支障はないように見えたからね。
それに、記憶ってのは、多かれ少なかれ、
はじめからそういう不確かな性質があるものだから。
さて、僕の言わんとすることはもう分かると思うけど、
以上の情報をまとめると、導き出される結論は一つ。
隣にいる女の子は、僕のかつての恋人が、
人生のやり直しに”失敗”した姿なんだよ。
そう。席を奪われたのは、僕だけじゃなかったんだ。
僕が中学の頃に告白したのは見当違いの相手で、
殺人を犯してまで取り戻そうとした恋人は人違いで、
僕がいつも影から見ていた二人は、両方とも代役だったんだ。