先輩女「でもそれじゃ後輩女ちゃんも辛いでしょ?」
後輩女「わたしは――」
男「いえ、彼女は赤坂で待機です。そこまでの強行に同行はさせません」
後輩女「え、でも……」
先輩女「それは無いんじゃないかな? 今のメイン担当は後輩女ちゃんでしょ? 普通は同行じゃない?」
男「定常業務の担当は彼女です。しかし今回はイレギュラーですし、早めにやらないと生産計画に支障が出ますから」
先輩女「来週中でチェック完了なら生産は問題無いって。ストックもあるし」
男「そういう問題ではないです。ラインが動く以上は品質チェックは必須です」
先輩女「じゃあわかった! ラインが動かなければ良いんでしょ? ミキサー使わないとこだけやってもらえば、日にちはずらせる?」
男「それであれば問題無いです。初動を見て問題無ければオンライン、それから二週間後くらいにもう一度見ます」
先輩女「じゃあそうしよ。ストック聞いてラインストップのリミット見るから、それがわかってから日程をも一回教えて?」
男「わかりました。ストックの詳細と生産キャパもメールでください。原料の調達具合も出来れば。私も確認します」
先輩女「用心深いのね……そこまでしなくても大丈夫よ」
男「念の為です」
後輩女「あの……わたしは?」
男「日程が固まり次第、同行させるか判断します」
後輩女(丁寧語……女先輩がいるから?)
先輩女「同行は必須でしょ? スケジュールに余裕があるんだから」
男「八割そうですね。本当に来週中で良いのなら、木曜日に相模原、金曜日に一関かと」
先輩女「新幹線乗るから休日前が良いよね。金曜日に帰って来ないで一緒に平泉でも行けば?」
男「いえ、私はこの前世界遺産登録された日に行きましたから」
後輩女「え?」
先輩女「は? 何それずるい!」
男「その時は月曜日の朝から作業だったので、日曜日に前入りしたんです。観光で行ったらその日に世界遺産登録されていました」
先輩女「それ知ってて行ったの?」
男「いえ、知らずに。夕方ホテルに帰ってテレビを観たらニュースでやっていて、それで知りました」
後輩女(わたしが行けなかった時だ。でも初めて聞いた……)
先輩女「ラッキーマンね……」
男「知ってて行きたかったですよ。やけに『世界遺産登録!』ののぼりが多いと思いましたが」
男「定時過ぎたよ。切りの良いところで上がりなさい」カタカタ
後輩女「はい……了解です」カタカタ
男「メール捌き切れない? 何かやろうか?」カタカタ
後輩女「いえ、あとこれだけです」カタカタ
男「タイピングも早くなったね。俺より早いんじゃない?」カタカタ
後輩女「比べるまでも無く男先輩の方が早いです。変なところで持ち上げないでください」カチカチ
男「はいすみません。そういった部分でも是非追い抜いてください」
後輩女「……男先輩、訊いて良いですか?」
男「どうぞ。メールは終わった?」カタカタ
後輩女「はい、今終わりました。……わたしがここに来た時、男先輩はずっと丁寧語でしたよね? いつの間にか砕けた感じで話してくれる様に
なりましたけど、えと……なんというか、どうしてですか?」
男「ん、そういう方が話し掛けやすいかと思ってね」
後輩女「相模原にいた時も、後輩の方には砕けた口調でした?」
男「うーん、どうかなぁ。品管に異動する時に引継ぎした新人の人はひと月しか一緒に仕事しなかったし、年上だったから丁寧語だったと思うよ」
後輩女「事務にわたしくらいの女性の方がいましたけど、その方は後輩でした?」
男「あぁ、俺の一年後輩だね。あの人は高卒だったかな? あんまり関わりが無かったからずっと丁寧語だったね」カタカタカタカタ