男「それは違う。はっきり言うよ、君は何も悪くない」
後輩女「………………」
男「……君は南北線だろ? 俺は千代田線だから、ここで」
後輩女「まだ納得がいってないです……多少なりともわたしにも責任があるというのなら、家まで一緒に付いて行きたいです」
男「責任だなんて、そんな風には言っていないよ。俺は子供じゃないから、心配してくれなくても大丈夫。家にはちゃんと帰れるよ」
後輩女「明日も調子が悪かったら、本当に家まで付き添います。わたし、何でもしますから」
男「そこまで迷惑は掛けられない。それに……明日はきっと治ってるよ」
後輩女「本当に? 信じて良いですか?」
男「うん……」
後輩女「……指切りはしない方が良さそうですね。男先輩の指が無くなっちゃいそうですから」
男「そうしてもらえると助かる」
後輩女「でも……一つだけ、約束してください」
男「何?」
後輩女「男先輩が家に着いたら、わたしに電話してください。『ちゃんと着いた』って、声で教えてください」
男「君は過保護だな」
後輩女「男先輩にだけですよ。……それから、お話しましょう? 他愛の無いことで良いんです。今度のデートのこととか、水曜日のドライブでは
何のCDを持っていくとか、そういうこと」
男「……あぁ、わかった。必ずかけるよ」
後輩女「電話の前で正座して待ってますね。お疲れ様でした」
後輩女「番号はお互い知っていますけど、こうして電話で話すのは初めてですね」
男『いつも一緒にいるからね。電話を介する必要無いから』
後輩女「そうですね。晩ご飯は食べました? それとも帰宅してすぐ電話をくれたんですか?」
男『家に着いて、着替えただけ。食事は食べる気がしないな』
後輩女「ちゃんと食べないと駄目ですよ? 冷蔵庫の余りものでも良いから食べないと」
男『冷蔵庫は無いんだ』
後輩女「え……冷蔵庫無いんですか?」
男『いつも食べる分しか買わない。買い溜めを習慣にしたくないんだ』
後輩女「そうなんですか……」
男『こういうこと言うと変人みたいに思われるかな?』
後輩女「良いと思いますよ。そういう生活の人もいないわけじゃないでしょうから」
男『うん……ありがとう』
後輩女「ふふっ、どうしてお礼を言うんですか?」
男『なんとなく、ね。君は晩ご飯は?』
後輩女「軽く済ませました。夜にいっぱい食べると太っちゃいますから」
男『節制しなくても十分細いじゃない』
後輩女「節制しないと体型が維持出来ないんです。男先輩はぽっちゃりした女の子の方が好きですか?」
男『ん……あんまり考えたこと無いな。顔とのバランスが取れてれば良いんじゃないか?』
後輩女「わたしの体型って……どう思います? やっぱり胸は大きい方が好きですか?」
男『君は今のバランスが一番良いと思うよ。幼い顔立ちに細い体型で、とても可愛いと思う』
後輩女「本当ですか? えへへ……可愛いと思いますか?」
男『うん、前も言ったけど、君は凄く可愛いよ』
後輩女「じゃあお勧めのCD持って行きますから。水曜日に一緒に聴きましょう?」
男『あぁ、あのノートならCD聴けるし。CDが聴ける社用車はあれ以外無いかもね。全部乗ったこと無いからわからないけど』
後輩女「男先輩、車って持ってますか?」
男『一応ね。でも今はあまり運転しない』
後輩女「そうなんですか? もったいないですね」
男『相模原にいた頃は通勤で使ってたよ。今は電車だけど』
後輩女「その車ってってCDは?」
男『古いけど付いてるよ』
後輩女「じゃあ、いつか男先輩の車でドライブしたいです」
男『うん……』
後輩女「……もしかして地雷でした?」
男『……気にしないで。うん、大丈夫だから』
後輩女「ごめんなさい……もうだいぶお話しましたね、一時間半くらいですか。電話代お任せして済みません」
男『どうせ誰にも電話しないから、無料通話は余ってるよ。まったく問題無い』
後輩女「男先輩、わたしの我侭に付き合って頂いてありがとうございます。今朝の様子を見ていたら、やっぱり不安で……」
男『こっちこそ不安にさせてしまって申し訳ない。今はだいぶ楽だよ。君と話していたから』
後輩女「気付いてますか? 今日の男先輩、わたしといる時、一度も笑ってないんです」
男『……そっか』
後輩女「明日は笑ってください。そうじゃないとわたしの不安は続いてしまいます」
男『何とか……どうにか、頑張るよ』
後輩女「無理はしないでくださいね?」
男『うん、ありがとう……ごめんね』