男「無理はしないように」
後輩女「はい……すぅ、……ふぅー」
男「むせなかったね」
後輩女「……意外と……あ、でも……ちょっと頭がくらくらします」
男「それがヤニクラってやつだよ。重い煙草はくらくらする」
後輩女「うーん、煙草の匂いです。特においしいとは感じませんでした。すぅ……」
男「あ、また……」
後輩女「……ふぅー。なんだか、大人になった気分です」
男「もう今年で二十四だろう? 十分大人だよ」
後輩女「初めてお酒を飲んだ時とは違う気分です……いけないことをしてるような」
男「煙草は合法だよ。お酒みたいに飲み物を飲む、みたいに近しい行為が無いからね。初体験は緊張するものだ……すぅ」
後輩女「……間接キスですね」
男「何をいまさら。嫌なら新品にしてほしいと言えば良い」
後輩女「嫌じゃ、ないです。男先輩ですから」
男「そ。俺も君なら――」
後輩女「……ん? 何ですか?」
男「……いや、何も。また調子が悪いみたいだ」
後輩女「それなら今日はもう上がりましょう? 駅まで一緒に帰りましょう、ね?」
後輩女「二月も終わりですけどまだまだ寒いですね」
男「あぁ……」
後輩女「こうして一緒に会社を出るのって初めてですね。出張で直帰だと途中まで一緒ですけど」
男「そうだね……」
後輩女「金曜日の夜は何が食べたいですか? 岩手で有名なものってなんでしたっけ?」
男「さぁ……わからない」
後輩女「……調子悪いですか?」
男「……ちょっとね。また苦しくなってきた」
後輩女「調べたんですけど、今朝のは過呼吸とかじゃないですか? ストレスなどが主な原因って書いてありました」
男「………………」
後輩女「済みません。また、謝らないとですよね」
男「いや……申し訳なくなってね。今日は君に迷惑かけてばかりで」
後輩女「今までわたしが迷惑をかけてきましたから。男先輩の調子が悪い時は、わたしがフォローします」
男「……ありがとう。助かるよ」
後輩女「やっぱり一度病院で診てもらいませんか?」
男「いや……遠慮という以上にそれは嫌だ。そうなったら過呼吸の原因になったことを医者にも話さなければならないだろう? それは嫌だ」
後輩女「……わたしに相談するのも、どうしても嫌ですか?」
男「君には……」
後輩女「………………」
男「……どこかで、話したいと思ってる。でも――」
後輩女「それ以上は、今日は良いです。少しでも話したいと思ってくださってるのなら、わたしは待ちますから」
男「……あぁ」
後輩女「わたし、土曜日の平泉はデートだと思ってます。それまでに男先輩がいつも通りに戻っていればな、って期待していますから」
男「デート、か」
後輩女「そうです。やっとデートです」
男「………………」
後輩女「……あの、変なこと訊きますけど……不調の原因ってもしかして……わ、わたし……ですか?」
男「………………」
後輩女「………………」
男「……関係無いと言えば嘘になるが」
後輩女「か、関係は、しているんですね?」
男「君には何の落ち度も無い。俺の感じ方が問題なんだよ。気にしないでほしい」
後輩女「何がいけないのか……自分でも心当たりはあるんです。男先輩に不快な思いをさせているのなら、はっきり指摘してください……」
男「違う。君にいけないところなんて何も無いよ。何が駄目なのか決めるとすれば、それは俺の感じ方なんだよ」
後輩女「でも、わたしのやったこと言ったことが男先輩の感じ方に合わないのなら、それはわたしが駄目ということに……」