男「ほら、新幹線来たから乗るよ」
後輩女「うん……」
男「眠たいの? 本当に子供だねぇ」
後輩女「違うの……疲れちゃったから……」
男「それが子供なんだって」
後輩女「ん……席まで引っ張って」
男「はいはい。こっちだよ」
後輩女「……どこまで?」
男「着いたよ。はい座って」
後輩女「ここ?」
男「お嬢さん、上着脱ぐ?」
後輩女「うん……脱がして?」
男「昼間はあんなにはしゃいでたのに。楽しかった?」
後輩女「うん、楽しかったです。金色堂も綺麗でした……」
男「良かった良かった。上野に着いたら起こしてあげるね」
後輩女「お話ししたいです。あなたともっと……」
男「今は休みなさい。俺の家に着いたらゆっくり話も出来るから」
後輩女「うん……肩に寄りかかって良い?」
男「良いよ。喉が渇いたらお茶もあるから言ってね」
後輩女「……お母さん、みたい」
男「旦那さんじゃないの?」
後輩女「そう……あなたは、わたしの旦那さんです」
男「お母さんは、ねぇ。そういう気持ちも今は無きにしも非ずだけど……」
後輩女「あなたは楽しかった?」
男「もちろん。楽しかったよ」
後輩女「わたしは、今も楽しいですよ」
後輩女「この辺りは初めて来ました」
男「そうか……ここだよ」
後輩女「はい……このマンションですね」
男「緊張してるの?」
後輩女「き、緊張は、してます。だって好きな人の家ですから」
男「何も無さに驚くと思うけど……どうぞ」
後輩女「お、お邪魔しま……す?」
男「語尾が上がったね。それはそうだと思うよ」
後輩女「………………」
男「コーヒーでも飲もうか。牛乳も買ったし」
後輩女「……ほんとに何も無いですね」
男「だから言っただろう? 何も無いって」
後輩女「テレビとテーブル……だけ。ホテルよりものが少ないなんて」
男「他に必要なものなんて無いし、欲しいと思うものも無かったから」
後輩女「それにしても……」
男「俺に失望した?」
後輩女「……いいえ。わたしを甘く見ないでください。あなたが何にも興味が無いのなら、わたしに夢中になってもらえば良いのです」
男「君らしい言葉だ。俺が好きになったのもそんなポジティブな君なんだろうな」
後輩女「ちなみにテレビとテーブル以外には?」
男「クローゼットに布団と身の回りのものを入れたスーツケースが入ってる。それくらいかな」
後輩女「……シンプル生活ですね」
男「いや、いつ死んでも良いようにって思ってた」
後輩女「………………」
男「今はそんな風に思ってないよ。少しでも長くって思ってる」
後輩女「当たり前です。わたしが生きている限りはあなたも必ず生きてください」
男「あぁ……わかってる。コーヒー入れたよ」
後輩女「はい、いただきます」
男「煙草吸って良いかな?」
後輩女「……あなたがここでどんな生活をしていたか、わかる気がします」
男「どんなイメージ?」
後輩女「見もしないテレビを付けて、煙草を吸ってるイメージ……それとコーヒーも」
男「当たりだよ。家にいる時は……ふぅ、大体そんな感じ」
後輩女「本当に、何事にも興味が無いんですか?」
男「んん……どうだろう。物欲は無いし、物には執着が無い。でも、知識は増やしたいし深めたいと思ってる」
後輩女「図書館によく行くって言ってましたね。それと確か秋葉原も……?」
男「よく覚えてるね。本は、買わないで図書館で借りてる。秋葉原は……ジャンク品がね……」
後輩女「ジャンク品?」
男「うん……秋葉原の電気街の方って、小さな電気屋さんがたくさんあって。そこに……B級品って言えば良いのかなぁ……動作が保障されない
ジャンク品もあって……ジャンク品って、俺みたいだなって思ってたんだ」
後輩女「どうして、あなたとジャンク品が?」
男「うん……上手く説明出来ないと思うんだけど、一般の人間から見れば俺は精神的に正常ではないと思うんだ。正常じゃない自分が、きちんと
動作しないかもしれないジャンク品と同じだなって思って、そのよく売られてる場所を歩くと、仲間がいっぱいいるなぁ……って」
後輩女「………………」
男「馬鹿みたいだろ? でも、そこを歩いてるとどうしてか落ち着くんだよ。帰属意識かもしれない。何も買わないけど、そんなことの為にたまに
行ってた」
後輩女「……ほんと、馬鹿みたいです」
男「そうだろう? 嫌いになった?」
後輩女「なるわけありません。あなたはわたしに嫌われたいんですか?」