男「君は暖かいな……」
後輩女「わたし、女性にしては結構体温が高いみたいです。男先輩もあったかいですよ」
男「ほんと、抱き枕にちょうど良いサイズだ。やわらかくて、抱きやすくて気持ち良い」
後輩女「もう朝ですね……」
男「うん、ごめん……」
後輩女「何がですか?」
男「温泉。結局行けなかったね。泣き喚いて、そのまま疲れて寝ちまったし」
後輩女「泣き喚いていたのはわたしです。先に寝たのも、きっとわたしですから」
男「……うん」
後輩女「あ……ちょ、ちょっと苦しいです。いくらなんでも強過ぎ……」
男「胸もあんまり無いんだね……可愛いなぁ」
後輩女「聞き捨てなら無いことが聞こえました。あなたは謝罪するべきです」
男「可愛いって言ったこと?」
後輩女「違います。わたしだって、ぬ、脱いだら凄いかもしれな……いえ、なんでもないです……」
男「途中で言うのを止めたってことは、結局無いんでしょ?」
後輩女「むー、わたしだって気にしてるんですよ? だって中学生の時からサイズが変わってないし……」
男「まぁまぁ。そういうのにも少なからず需要はあるって」
後輩女「あなたは……大きい方が好き?」
男「正直考えたこと無い。一人しか見てなかったから」
後輩女「そう……ですよね」
男「でも、君が無いなら……その方が良いかな?」
後輩女「………………」
男「あ、少し鼓動が早くなったね。嬉しいの?」
後輩女「………………」
男「痛い痛い痛い。髪引っ張んないで」
後輩女「わたし、シャワー浴びてきます」
男「そうか……寂しくなるな」
後輩女「あなたもシャワーを浴びてくださいね。その後で朝ご飯を食べて、平泉観光に行きましょう?」
男「そうだな。今日はそれが目的だからね」
後輩女「お昼に温泉に寄って、夕方の新幹線に乗りましょう。今夜はそのままあなたの家に泊まります」
男「俺の家? 何も無いよ?」
後輩女「あなたがいます。わたしはそれで十分です」
男「……ははっ」
後輩女「……何かおかしかったですか?」
男「や……君のね、言葉のオブラートが無くなったと思って。今までは回りくどくアピールしてくれてたからさ」
後輩女「あなたと同じ、臆病だったのです。でも、もう隠す必要もありません。これからはストレートにあなたへ愛を表現します」
男「そうか……それじゃあ、俺は真正面から受け止めないとね」
後輩女「もちろんです。もう受け流すのは禁止です」
男「うん……今までごめん」
後輩女「謝らなくて良いです。その代わり、これからはわたしにあなたの愛をください」
男「うん……」
後輩女「返事が少しおざなりです。愛が伝わって来ませんでした」
男「もう少し、時間が必要かな。彼女のことも整理しないといけないから」
後輩女「大丈夫です。わたし、いつまででも待ちますから……でも、必ずわたしのところに来てくださいね」
後輩女「どうですか? 似合ってますか?」
男「うん、似合ってるよ。ポンチョっていうんだっけ?」
後輩女「はい。今日のデートの為に用意したんですよ?」
男「今日の為に? 何だか申し訳無いなぁ」
後輩女「何を言ってるんですか。あなたに見せる為なんですから、もっと見るべきです。もっと褒めるべきです」
男「はい、とても可愛いですよ。君しか見たくないくらい可愛い」
後輩女「……そ、そんなに?」
男「本音だよ? 真っ白いポンチョが雪の妖精みたいで、本当に可愛いよ」
後輩女「お、お、お、男先輩のテンションがおかしいです……今までそんなに褒めてくれたこと無いのに……」
男「もっと褒めろと言ったのは君だろう? 褒め言葉はちゃんと受け取ってくれよ」
後輩女「あ、あ、ありがた過ぎてどどうしたら良いか……」
男「褒めてくれないと思ってた?」
後輩女「違います違います! 今回もさらっと言われると思ってました。そんなにたくさん言ってくれると思ってなくて……」
男「気恥ずかしかったんだ。期待させてはいけないとも思ってた。でも、これからはちゃんと思ったことを言うから」
後輩女「……はい、お願いします」
男「さ、チェックアウトして平泉に行こう。一ノ関駅に着いたら手荷物はコインロッカーに預けようか」
後輩女「……お、男先輩」
男「何?」
後輩女「その……部屋を出る前に、もう一回だけ、抱きしめてください……」
男「うん? 良いの? せっかく着替えたのに」
後輩女「はい、大丈夫です。服は問題ありませんから……」
男「……はい、ぎゅー」
後輩女「子供扱いは……駄目って言ったじゃないですかぁ」