先輩女「わ、わかってんだ……なら良いのかな?」
男「大丈夫です。黒いは黒いですが、嘘の吐けない黒さなので問題ありません」
後輩女「むー、貶してますね?」
男「からかってるんです。気にしないで」
後輩女「……ふん、後で覚えておいてください」
先輩女「……あたしお邪魔?」
男「私にご用ですよね。何かありました?」
先輩女「う、うん、木更津についてなんだけど、向こうから来た報告内容で相談があってね」
男「先週私の方に電話があった内容ですかね。品質マニュアルの通りにすると歩留まりが異常に悪くなる……とか?」
先輩女「そうそう。急に来たからこっちも驚いちゃって」
男「木更津に出向いた方が良さそうですか?」
先輩女「それも含めて話し合いたいと思ってるのよ。今日はもう時間無いから、明日にでも時間くれない?」
男「わかりました。こちらは二人で参加します」
先輩女「うん、ありがと」
男「木更津から来た資料を送ってもらえますか? こちらでも確認します」
先輩女「オッケ。戻ったらすぐに送るね」
男「えぇ、お願いします」
<3/10・SAT>
後輩女「本当は、今日も一日一緒にいたかったです」
男「ごめん。急に実家に呼び出されたから」
後輩女「そういえば、わたしのことをご両親には?」
男「まだ言ってないよ」
後輩女「わたしは言いましたよ? 結婚したい人がいるって」
男「そうか。早いね」
後輩女「まるで他人事みたいに言わないでください。両親は驚いてましたけど、喜んでくれてました」
男「いやぁ、心配してるんじゃないか? 大切な一人娘なんだし」
後輩女「どうでしょう……わたしの両親はとても仲良しで、二人だけで旅行とか行ってしまうんです。だから、わたしも早く相手が見つかればって
思ってたみたいです」
男「良いご夫婦なんだね」
後輩女「端から見ればそうでしょうね……一人で家に残された身としては、ちょっとやるせなさもありますけど」
男「そうか……寂しかったか」
後輩女「……ちょっとベランダに出ませんか? 夕日が凄く綺麗です」
男「うん。全部茜色だ」
後輩女「……あれから一週間ですね」
男「そうだね。あれはもう先週か……」
後輩女「ちょっと気になったことがあるんです……訊いて良いですか?」
男「どうぞ」
後輩女「二週間前ですか……最初に女さんから結婚の連絡があったのは?」
男「そうだよ。二週間前の土曜日の夜だ」
後輩女「で、先週の一関のホテルにいた時の電話……あれは何についてだったのか、訊いても……良い?」
男「大丈夫だよ。あれは友からだった。彼女から俺の様子がおかしかったって聞いたみたい。それと、もう一つ報告だった」
後輩女「報告?」
男「うん、ちょっと待ってて……これ」
後輩女「これは……結婚式の招待状?」
男「招待状を出したからって。最初の彼女からの連絡は、結婚することと式の日程だったんだ」
後輩女「そう……だったんですか」
男「これは出欠席を返送しないといけない……けど」
後輩女「………………」
男「行くかどうか、まだ決めてない」
後輩女「それは……」
男「どうしたら良い? 俺は行った方が良いかな?」
後輩女「……決めるのは、あなたです」
男「そうなんだけど……正直行きたくないな。二人に会いたくない」
後輩女「………………」
男「会ったらさ、また過呼吸になったり、情緒不安定になるかもしれない。幸せな席にそんな男はいては駄目だろうから」
後輩女「でも、行かなかったら行かなかったで、ずっとずるずる引き摺り続けるかもしれません」
男「そうなんだよね。今までを思い出にする為には、いっそ二人に会って祝福するのが正解だと思う」