男「飴ちゃん舐める?」
後輩女「はい、飴ちゃん頂きます」
男「どこまで行きたい? 君のリクエストを聞こうか」
後輩女「そうですね……海も行きたいですし、景色の良い山道のハイウェイも行きたいです」コロコロ
男「女の子がハイウェイなんて言うの、初めて聞いたよ」
後輩女「好きなアーティストの歌詞にあるので影響されてしまったようです」コロコロ
男「そうだな……箱根でも行こうか。途中で海沿いも走れるし、山も近いし」
後輩女「この時期は混んでますか?」コロコロ
男「夏でもないし、混んでないと思うよ。ま、箱根付近はあまり走ったこと無いけど」
後輩女「混んでても、わたしは大丈夫です。密室にあなたと二人なら……」テレテレ
男「周りから見えるから迂闊なことはしないでね。恥ずかしいし、事故るから」
後輩女「わたしは常識人です。心配無用なのです」コロコロ
男「………………」
後輩女「返事をするべきです。わたしは常識人です」
男「……そうだね」
後輩女「わたしとしては誰が見ていようと構いませんが、あなたが恥ずかしいのが嫌なのであれば、迂闊なことはしないと約束します」コロコロ
男「………………」
後輩女「返事をするべきです。わたしを信じてください」
男「……よろしく」
後輩女「返事が遅過ぎです。もっとわたしに集中するべきです」コロコロ
男「運転中ですから……」
後輩女「男さんはブレーキは左足ですか?」
男「そうだよ」
後輩女「オートマで両足を使うんですね。でも、ハンドルはいつも左手だけ……」
男「昔から癖でね。右手で頬杖したいから、曲がる時とウインカーくらいしか右手は使わない」
後輩女「それは真似しませんが、左足のブレーキはわたしも挑戦したいです」
男「言ってくれればいつでも車を貸すよ。社用車でも試してみると良い」
後輩女「あなたは右利きでしたよね? ペンもお箸も」
男「そうだよ。でも、たまに左の方がやりやすいものもあるんだ。運転とか、煙草を持つ手も左」
後輩女「わたしは全部右ですね。完全に右利きです」
男「でも左足ブレーキに挑戦したいの?」
後輩女「だってあなたがそうやってるから……」
男「真似しなくても、ちゃんと運転できてるじゃないか?」
後輩女「あなたに比べたら全然……ブレーキの……余韻、って言うの? まったく違うのがわたしでもわかります」
男「そうかな? 俺はただ自分が不快じゃない運転をしてるだけだよ」
後輩女「あなたは自分に対して凄く厳しいから、あなたがミスだと思うレベルでもわたしには上手に思えるの」
男「そう? ありがとう」
後輩女「……ほら、今もブレーキの反動が全然無かった。滑らかに止まって、滑らかに走り出す……凄い。わたしも、やりたい」
男「長い時間乗れば、誰でも出来るよ」
後輩女「わたしでも?」
男「もちろん、君なら当然出来る」
後輩女「出来たら……褒めてくれますか?」
男「あぁ、飴ちゃんあーんしてあげるよ」
後輩女「それはいつでもしてほしいです」
男「まだちょっと海は寒いかな?」
後輩女「風がありますね。日差しはありますけど、少し寒いです」
男「車に戻ろうか?」
後輩女「ん……もう少しだけ」
男「わかった。……海、好きなの?」
後輩女「好き……という程でもないですね。たまに見たくなるくらいです」
男「そうか……」
後輩女「あなたは好き?」
男「うーん……俺は生まれ育ちが海に近い場所だから、海に来ると安心するかな」
後輩女「波の音が聞こえたりするんですか?」
男「いやいや、そんなに近くはないよ。でも、夏には潮の香りがする町だった。東京湾の奥だから汚い海だけど、砂浜のある公園はよく歩いてた」
後輩女「……一人、で?」
男「……いや、二人で」
後輩女「………………」
男「つまんないだろ? 俺の話は」
後輩女「……思い出話で嫉妬する程、わたしは傲慢じゃありません」
男「……そうか」
後輩女「さ、手を繋いで車に戻りましょう?」
男「あぁ、冷えてきたからな……君の手も冷たい」
後輩女「ね、車に戻ったら、キスしてください」
男「……舌なめずりは止めなさい」
後輩女「未来永劫あなたはわたしのものですから、昔を思い出すのも程々にしてくださいね?」
男「君にはほんと、敵いそうにないよ……」