【※感動※】後輩女「あなたはわたしと結婚するべきです」男「……そうなの?」

<6/3・SUN>

男「久しぶりだな」

友「よ、よぉ……久しぶり」

男「タキシード、決まってるじゃないか」

友「そうか? これちょっと窮屈なんだよな」

男「それぐらい我慢しろよ。今日だけなんだから」

友「そうだな……な、なぁ?」

男「何だ?」

友「あの、さぁ、その……恨んでるか?」

男「は?」

友「女のこと……好きだったんだろ? 俺、それ知ってたのに……お前に――」

男「俺は思い出話をしに来たんじゃない。結婚する友達二人を祝福しに来たんだ。恨むとかそういう話はするなよ」

友「でもよ……俺この十年ずっとお前に申し訳なくて……」

男「良いか? 俺は恨んでなんていない。彼女を幸せに出来るのは友だけだ。それは俺が一番わかってる」

友「………………」

男「彼女をずっと見てきた俺が言うんだから間違いない。胸を張って彼女の横に居ろよ。じゃないと、俺はその方が腹が立つ」

友「……あぁ」

男「俺に殴られたくなかったら、二人でずっと幸せでいろ。俺なんか忘れちまうくらいに、な」

友「わかったよ……でも、殴られた方が逆にスッキリしたかも」

男「タキシード姿の友は殴れないな。着替える前だったらボコボコにしてやれたけど」

友「……お前、変わったな? 昔は冗談なんて滅多に言わない奴だったのに」

男「冗談だと思うか?」

友「冗談にしておいてくれ……。女にも会っていくだろ? 控え室にいるから、行ってやってくれ」

男「そうだな……行ってくるよ」

男「……や、久しぶり」

女「男……くん」

男「……綺麗だな。その一言しか出ないよ」

女「………………」

男「さっき友に会ってきたよ。あいつもタキシードが似合ってた。お似合いの二人だな」

女「私……」

男「うん?」

女「男くん……ごめん、なさい……」

男「俺が言ってたこと、覚えてる?」

女「……うっ……ううっ……」

男「『謝らないで』って、いつも言ってただろう? 君は何も悪くないんだから」

女「うっ……でも……私……」

男「君は友を選んだ。それは君が幸せになる為に必要な判断だったよ。君がしたことは正しいんだから、謝らないで?」

女「私、男くんの気持ち、わかってたのに……知ってたのに……」

男「そうか……でも、今あえて言わせてもらうよ」

女「………………」

男「俺は、君が好きだった。小学生の時からずっと……君が友と一緒にいる時も、会わなかった十年の間も好きだった」

女「……うん」

男「今でも友人として大切に思ってるし、幸せになってほしいと思ってる。でも、君を幸せに出来るのは友だよ」

女「そう……思う?」

男「もちろん。でなきゃ、俺は友を許さないよ」

女「だよね……幸せにならないと、駄目だよね?」

男「友にもさっき同じことを言ってきた。俺を忘れるくらい幸せになれって」

女「うん……でも、男くんのことは忘れられないよ? 男くんにはどれだけ感謝しても足りないくらい色々してもらったから……」

男「二人が幸せならそれでも良いよ。……俺も、今は幸せだから」

女「そうなの?」

男「うん……今はね、君じゃない人を愛してる。君のことを忘れてしまうくらい、あの子のことを考えてる」

女「そうなんだ……そんなに想ってもらえるなんて、その人も幸せなんだろうね?」

男「どうだろうね? あの子が幸せなのか俺にはわからないけど、俺はあの子の傍に居られて幸せだよ」

女「男くん……変わったね」

男「そう?」

女「うん、変わった。高校生の時は……どこか張り詰めてた感じだった。今は全然そんなこと無いみたい」

男「そうだね……変われたのは、あの子のおかげだよ」

女「……ねぇ? その子、今度紹介してくれる?」

男「あぁ。生活が落ち着いたら連絡してよ。俺の可愛いパートナーを紹介する」

女「ふふっ、男くん、やっぱり変わったね?」

男「ん?」

女「『可愛いパートナー』って。そんなキザなこと言ったこと無かったのに」

男「可愛いものは可愛いんだよ。ちょっと変わった子だけどね」

女「そっか……可愛いんだ」

男「うん」

女「………………」

男「結婚おめでとう。お幸せにね」

これで良かった……二人の関係を取り持った時もそう思ったはずだ。でも、その時とはその言葉に込めた意味が違っている。

俺の選択は間違っていなかった……式の最中、主役の二人はずっと笑っていた。それがとても嬉しかった。

心が軽い。どこまでも飛んで行けそうなくらいに。飛んで行くとしたら……そこには必ず、あの子がいる。

今までの俺は間違っていなかった……それは断言出来る。誰が否定しようと、あの子が今までの俺に拍手をくれる。

それだけで俺は報われる。今までが悲劇だったとしても、これからは幸せな物語が待っている。

笑顔の君と……。

わがままな君と……。

怒った君と……。

扉を開ければ、今までが終わる。それから、きっと、次の物語……。

後輩女「おかえりなさいっ!」

君が笑顔で出迎えてくれる……それが、凄く嬉しい。

男「あぁ、ただいま」

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