「――野原くん、この企画の件だが……」
「はい。これはですね……」
会社の中で、オラと係長は、次の企画について話をしていた。
この会社に勤めてもう9年……仕事にもすっかり慣れた。高校卒業と同時に入社したこの会社は、会社の規模は小さいが給料がいい。
おまけに上司も温かみのある人が多く、色々とオラを助けてくれている。
「――あ、もうこんな時間!帰らないと……」
「ああ野原くん!この後、一杯どうかね!」
「あ……すみません係長、これから家でご飯を作らないといけないので……」
「少しくらいいいじゃないか」
「はあ……でも、妹がお腹を空かせて帰りますし……」
「……そうか。キミは、妹さんと二人暮らしだったな……分かった。早く帰ってあげなさい」
「本当にすみません。それでは……」
足早に会社を出て、そのまま家に向かう。その帰りにスーパーに寄り、食材を購入する。
ひまわりは料理が苦手だ。たまに教えるんだが、母ちゃんに似たのか、飽きっぽくてすぐに止めてしまう。
ホント、似なくていいところばかり似るもんだ……
「――ただいまー!」
大きな声を出して、ひまわりが帰って来た。そしてスーツのまま、台所へ駈け込んで来た。
「お兄ちゃんお腹空いた!今日のごはん何!?」
「クリームシチュー。好きだろ?」
「うん!大好き!」
ひまわりは目を輝かせながら、鍋の中を覗きこむ。そして大きく匂いを嗅ぎ、満足そうに息を吐いた。
「こらこら。先に手を洗ってきな。ごはんは、その後だ」
「ええ!?いいじゃんべつに……」
「だ~め!」
「ぶー……」
渋々、手を洗いに行った。これも何度目の光景だろうか。行動が全く進歩しない妹に、少しばかり不安を感じる。
これじゃ、嫁の貰い手もないだろうな。