社長「君、お客様に失礼だぞ! 訂正したまえ! 慰謝料を払おう!」
弁護士「あんたは黙ってろ、バカ社長。今が勝訴か敗訴かの分水嶺だ」
社長「ひゃ、ひゃいっ!」
弁護士「ウチの製品は常識をわきまえた人向けの製品」
弁護士「常識のないバカを想定していたら、説明書を広辞苑ばりにブ厚くしなければならなくなる!」
弁護士「よって、説明書にいちいちそんなもの書く必要はない」
弁護士「電子レンジで猫を温めたなどという事例に、慰謝料を払う必要は一切ない!」
猫「わ、吾輩は……吾輩は……ッ!」
弁護士「ウチの会社の客に……バカはいらんのだ!」
弁護士(そう、バカはいらない)
『ごめんね……うちのアパート、ペット禁止だって知らなくて……』
『ごめんね、ごめんね……ぼくがバカだったせいで……』
弁護士(バカは悲劇しか生まない)
弁護士(だから私は猛勉強して、弁護士になったのだ!)
弁護士「認めるのですか? あなたはバカだと」
猫「わ、吾輩は……吾輩は……ッ」
猫「吾輩はバカである!!!」
男「猫さん……!」
女(こんな弱々しい猫さんを見るのは初めてだわ……)
ザワザワ……
「決まったな」 「さっすが敏腕弁護士だぜ……」 「あの猫も善戦したけどな……」
弁護士(もはや勝訴は見えた……ダメ押しといこう)
弁護士「あなたの心とやらは、なぜ濡れていたんですか?」
弁護士(どうせバカな理由だろう……それを叩きのめして完全勝利をもぎとる!)
社長(弁護士……なんて外道な! 卑劣なッ! 許せないッ!)
男「猫さん……ッ!」
女「猫さん……」
猫「分かった……全てを話そう」
猫「30年前のことだ」
裁判長「ずいぶん長生きな猫ですな」
猫「吾輩は当時、捨て猫でな。未熟ゆえ人間の言葉を話すこともできなかった」
猫「なすすべなく寒さに震えていた時、ある心優しい少年に拾われたのだ」
弁護士「!」ピクッ
猫「だが――」
猫「その少年のアパートは……ペット禁止だった」
猫「少年は両親にこっぴどく怒られてしまった」
猫「だからその少年は……吾輩を再び捨てることになったのだ」
弁護士「……」ハァハァ
社長「弁護士君? どうした? お水飲む?」
弁護士「ぐっ……」
弁護士「つまり、あなたの心は……その少年を憎み恨んで……30年間ずぶ濡れだったと?」
猫「……」
弁護士「そうなんだろう!? ハッキリいってくれ!!!」
猫「そうではない」
弁護士「!!!」