【帰り道】
男「………悪かったな、今日は」
女「別にいいよ。部活……頑張って」
男「んー……そう、だな」
男(……今日、俺が女と昼飯を食わずに部室へ行ったのは、別に文化祭へ向けての製作が難航しているからでは、ない)
男(むしろ、それ自体は非常に順調だ)
男(ただ、忘れたかった)
男(自分の置かれたこの理不尽な境遇から、逃げ出したかった)
男(物理は、嫌なことを忘れさせてくれる)
男(辛いとき、悲しいとき。どんなときでも、機械を弄っていたら、それだけで楽しくなることが出来る)
男(人間誰しも、そういうものの一つや二つ、あるだろう)
男(俺はそれがたまたま物理で、また、物理部という居場所だった、それだけのことだ)
女「………?」
男「……あのさ、俺今から凄い事言うけどいいか?」
女「………なぁに?」
男(……でも、俺は気付かされたのだ)
男(逃げてるだけじゃ、ダメだと)
男「俺は命を狙われてる」
女「………………」
男「……信じないならそれでいい。いつもの俺の戯言と思って聞き流してくれれば」
女「信じるよ」
男「………そうか」
女「せっかく男くんが話す気になってくれたんだもん。そんなの、信じられないわけないでしょ」
男「……ははっ、お前は優しいな」
女「彼女が彼氏に優しくするのはふつー」
男「そうだったな」
女「それに……男くん、何かに凄く怯えてる」
男「……………」
女「必死に強がってるけど、わかる。怯えながらも、その何かに立ち向かおうとしてる」