【電車】
ガタン ゴトン
男(俺は、ここ一週間の記憶が曖昧だ)
男(自分が何をして、誰と話し、何を学んだか、そういった漠然としたものは覚えている)
男(……でも、それだけ)
男(この一週間の感情が欠落している……といえばわかりやすいだろうか)
男(俺の覚えている記憶には、俺の”感情”がない)
男(女に慰められた記憶はある。でも何で俺がおちこんでいたのか、という記憶はない)
男(後輩に勇気づけられた記憶はある。でも後輩からもらった勇気で、俺が何を為そうとしていたのか、という記憶はない)
男(探ってみると、ネカフェに行った記憶も、ちゃんとあった)
男(……でも、なぜ俺がネカフェに行ったのか。その理由は、全くわからない)
男(………そう、まるで)
男(この一週間の記憶を、後から無理やり植え付けられたみたいに……)
男(……でもただ一つだけ、覚えていることがある)
男(灰色の記憶の中で、一つだけ異彩を放つその記憶)
男(俺は、確かに何かを探していた)
男(それを見つけないと、大変なことになってしまうということは、覚えている)
男(だけど、その何かは、残念ながら思い出せない)
男(それを俺は見つけることが出来たのか)
男(それすらも、わからない)