「え!?腰?」
美咲先生はそう言うと、ピョコッと腰を持ち上げた。にごった水面に、うっすらと先生のおしりらしい影が見えた。
(わっ!先生のおしりだ!)
僕はますます胸がドキドキしてしまった。
そのとき、先生の両足の甲がチラッと見えた。
(あ、そうか!「あおり足」になってるんだな……)
「先生、もしかして「あおり足」で泳いでるんじゃないですか?」僕がそう言うと、美咲先生は泳ぎを止めた。
「えー?「あおり足」って何?」
「ええと……、先生、平泳ぎって、足の裏で水を蹴るんですよ。先生は多分、足の甲で蹴ってるんだと思います」
「ああ、そういうこと!……でも私、ちゃんと足の裏で蹴ってるつもりなんだけどなあ」
「あおり足」は、初心者が陥りやすい失敗である。でも「ちゃんとできているつもり」の人に、口頭で教えるのは難しいものだ。
「じゃあ、僕がやってみますから、見ていてください」
僕はプールの端につかまって、かえる足をやってみせた。
「こうですよ、こうやって足の裏で蹴るんです」
腰を上げすぎると、僕のおしりが先生に見えてしまう。だから腰は低めにしたまま、足の動きを強調してみた。
それでも美咲先生は(まだよくわからない)という顔をしている。
「ねえ修くん、お湯にごっててよく見えないよ。プールの縁に腹ばいになって、足の動きをよく見せて」
(えーっ!そんなことしたら、僕のおしりが丸見えになっちゃうよ。嫌だなあ……)
「先生、ちょっとそれは……」
「え?何?」
「あの……、僕、海パンはいてないし……」
「あー!修くん、恥ずかしいんだ!ごめんごめん」
いくら周囲は真っ暗といっても、外灯の薄明かりと月明かりで、暗闇に目が慣 れると、結構見えてしまうのだった。