【真相】
出木杉「えっ?」
ドラえもん「僕は元々、のび太くんに道具を貸すのは小学生までと決めてたんだ。中学に入ったら勉強もスポーツも、全部自力で取り組むよう努力させる。それは僕がこの時代に来る前から、セワシくんと話し合って決めていたんだよ。」
出木杉「そんな・・・・・・のび太くんがそんな話を大人しく聞き入れるワケが・・・」
ドラえもん「もちろん、最初は大変だったよ。『嫌だ嫌だ』って散々駄々をコネられてね。もうホント、何回ケンカした事か。」
出木杉「・・・・・・。」
ドラえもん「だけど、何があろうと僕は心を鬼にして、頑として道具は出さなかったんだ。」
ドラえもんは険しい表情で語った。
当時の鬼の心境を思い出しているのだろうか。
持たざる者は持つ者に逆らえない。
この世の摂理だ。
ドラえもんが本気で道具を貸さなくなったのなら、のび太くんもそれには従わざるを得ないだろう。
だが、そうなると一つ疑問が残る。
のび太くんは道具なしでどうやって地元の公立高校に受かったんだ?
あの高校の普通科は決して難関とは呼べないが、それでも中の上程度の学力は求められる。
のび太くんは一体どうやってそれを?
ドラえもん「『のび太くんはどうやって今の高校に受かったのか?』でしょ?」
出木杉「!」
僕の疑問を見透かしているかのようにドラえもんは言った。
ドラえもん「ふふふ。そう思うのも無理ないよ。出木杉くんは中学の三年間ずっと違うクラスだったから、小学生までののび太くんしか知らないんだもんね。」
出木杉「う、うん。」
ドラえもん「さっきも言った通り、僕はのび太くんが泣こうが喚こうが僕の事を罵ろうが、一切道具を貸さなかった。その結果のび太くんは根負けして、しぶしぶ自分から勉強をし始めたんだ。」
出木杉「自分から・・・」
ドラえもん「うん。そこで引きこもったり非行に走ったりできるほどの度胸、彼にはないからね。まぁ、そもそもそんな歪んだ度胸が身に付くほど性根が曲がってないって言う方が正解かな。そこは本当に立派だなぁって思ったよ。って、我ながら親馬鹿・・・いや、ロボ馬鹿だね。あはは。」
出木杉「・・・。」
ドラえもん「もちろん、小学生時代に散々道具を貸し与えて甘やかした責任が僕にはあるからね。僕はその責任を果たす為に、未来の世界で家庭教師のプログラムをインストールして、彼の勉強には目一杯付き合ったよ。テスト前に徹夜で勉強するって言い出した時には、僕も徹夜で教えた。言わば僕はお世話ロボットから家庭教師ロボットへと立ち位置を変えたんだ。」
出木杉「・・・。」
ドラえもん「そしてね、忘れもしない一年生の中間テストの時だよ。のび太くんは数学で71点を取ったんだ。」
71点。
今日返却された僕のテストと同じ点数だ。
ドラえもん「嬉しそうな顔で帰ってきてね。あの顔は一生忘れないなぁ。僕もすっごく嬉しかったんだ。点数自体はそんな大したモノじゃないけど、それでも、のび太くんが初めて自分の努力で勝ち取った点数だったからね。パパもママもすごい喜んでたよ。」
努力で・・・・・・勝ち取った。
それはさぞ嬉しい事だろう。
よく分かる。
なぜなら、僕は今までその喜びを糧に生きてきたのだから。
ドラえもん「その日以来、のび太くんは道具には頼らず、何でも自分で頑張るようになったんだ。そのおかげで成績も少しずつ伸びていって、どうにか今の高校にも入れたんだよ。それと・・・・・・」
ドラえもんはそう言って言葉を切った。
沈黙が漂う。
彼なりの優しさだ。
そこから先の言葉を続けてしまったら、僕の事を怠惰であると非難する形にもなりかねないと思ったのだろう。
だが、実際その通りだ。
僕が勉強にばかりかまけている間に、のび太くんは勉強と、“その事”の両方に努力を割いていたのだから。
ドラえもんが飲み込んだ言葉の続きは、僕が引き継いだ。
出木杉「・・・・・・『しずかちゃんにも、自力でアプローチをかけた』?」
しばしの沈黙の後、ドラえもんは小さく「うん。」と頷いた。
出木杉「そうか・・・・・・。」
ドラえもん「到底女の子の趣味とは思えないドンパチものの映画に誘ったり、バレンタインのチョコももらってないのにホワイトデーにアクセサリーを渡したり、電話で延々と自分の事ばっかり話したり・・・・・・見てるこっちが恥ずかしくなるぐらい不器用だったけど、彼なりに頑張ったんだよ。」
返す言葉がなかった。
何だよそれ。
それを努力と言わずして何と言うんだ。
彼がそんな努力を積んでいる一方で、僕は何をしていた?
毎日ひたすら勉強、勉強、勉強。
たまにしずかちゃんの教室に顔を出して他愛もない会話をするだけ。
何の印象も残らない。
これがもし映画だったら、エンドロールでクレジットされる僕の役名は間違いなく同級生Aだ。
そんな何のアクションも起こさない脇役が、ヒロインと結ばれようなんて虫が良すぎる。
なのにその事に気付かず、あまつさえ主人公に嫉妬して罵詈雑言を並べ立てる始末。
本当に、どうしようもなく情けない。