【歩く】
すっかり暗くなってしまった町中を歩く。
どこをどう歩いて来たのか、あまり覚えてない。
というか、いま自分がどこを歩いているのかも、よく分からない。
ただ、歩く。
立ち止まったら、身体中を駆け巡る黒い感情が叫びとなって外へ飛び出してしまいそうだ。
そうならないよう、その感情を運動エネルギーへと変換しなくてはならない。
だから、
歩く。
歩く。
歩く。
出木杉「クソ・・・クソ・・・・・・」ブツブツ
あれは間違いなくのび太くんとしずかちゃんだった。
中学を卒業して以来会ってなかったが、その期間はせいぜい一年半ほどだ。
いくら成長期とは言え、わずか一年半で劇的に外見が変わるなんてありえない。
故に、見間違いという線は排除される。
二人は雑誌コーナーに立ちすくむ僕には気付かず、まっすぐスイーツの冷蔵対面ケースへと足を進めていった。
僕はその隙にコンビニを飛び出し、今ここにいる。
なぜ。
なぜなんだ、しずかちゃん。
中学の卒業式のあの日、僕は君を体育館の裏に呼び出した。
普段は剛田くんをはじめとする不良グループの喫煙場所だが、さすがに卒業式の直後とあっては誰もいなかった。
卒業式の日に、体育館裏で、告白。
まるでコントのようなベタベタの演出だが、僕にはあれが精一杯だった。
精一杯の演出の下、精一杯の言葉を振り絞った。
だが、
『気持ちは嬉しいけど・・・・・・ごめんなさい。私・・・・・・好きな人がいるの。』
なぜそれがのび太くんなんだ。
よりにもよって。
確かに彼は心の優しい人物だ。
おおらかで、友達想いで、捨てられている動物を見ると放っておけない。
優しさというその一点においては、おそらく彼の右に出る者はそうそういないだろう。
だけど、彼は努力をしない。
いつだってドラえもんの道具に頼り、他力本願で結果だけを掠め取っていく。
そんな彼と、いつだって努力で彼より高い結果を出してきた僕。
人間として尊いのはどっちだ?
美しいのはどっちだ?
一目瞭然じゃないか。
なのにしずかちゃん。
君は・・・・・・
君は・・・・・・
出木杉「こんな事が・・・・・・あってたまるk」
通行人「おい、君!!!! 危ないぞ!!!!」
出木杉「えっ?」
ブバアァァァァァァ
出木杉「!!!?」ビクッ
けたたましい轟音に驚き、伏せていた顔を上げた。
目の前には、巨大なタンクローリー。
クラクションを響かせて、僕の方へと迫ってくる。
ひきつった顔で何かを叫ぶ運転手と目が合った。
出木杉「!!!!!!!!」
いつの間にこんな広い道に出ていたんだろう?
というか、ずっと道の端を歩いていたつもりだったのに、知らない間に車道の真ん中に躍り出ていたらしい。
全ての動きがスローモーションと化す。
僕は・・・死ぬのか?
何一つ結果を残せていない。
母さんにも謝ってない。
しずかちゃんの手も・・・・・・握ってない。
なのに、死ぬ?
運転手「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」
巨大な鉄の塊は、もうその全体が視界に収まりきらない程の至近距離へと迫っていた。
相変わらず動きはスローモーションだが、体が動かない。
バンパーのエンブレムがハッキリ見て取れる距離まで迫る。
ダメだ。
助からない。
死ぬ。
直感でそう思った。
だけど・・・・・・
・・・・・・嫌だ。
絶対嫌だ!
死にたくない!!
助けて!!!
助けて!!!!
誰か!!!!!
出木杉「死にたくn」
次の瞬間、僕の体は宙を舞った。