【空中浮遊】
タンクローリーは僕が立っていた場所を通過し、急停止した。
僕はそれを、タンクローリーよりも高い位置から見下ろしている。
撥ね飛ばされ、放物線を描きながら。
体中の感覚が麻痺しているのか、痛みは全く感じない。
不幸中の幸いだな。
苦しんで死ぬのはごめんだ。
やがて落下し、アスファルトに叩き付けられるのも時間の問題か。
またスローモーションで長く感じるんだろうな。
死にたく・・・なかったな。
・・・・・・ん?
おかしい。
もういい加減、叩き付けられても良い頃合いなのに。
さっきから一向に落下する感覚がない。
かと言って、上昇しているワケでもない。
空中に・・・・・・静止している?
うん、そうだ。
確かに静止している。
これは・・・・・・あ、そうか。
撥ね飛ばされたんじゃなくて、体から魂が抜けたのか。
そりゃそうだ、マンガじゃあるまいし。
真正面から追突されたなら、体は上空ではなく真後ろに吹っ飛ぶか、もしくは車体の下に潜り込んで引きずられる。
僕の体は・・・・・・見当たらない。
という事は車体の下か。
きっとグシャグシャだろうな。
僕は魂だけの状態、いわゆる霊体となって、自分の事故現場を見下ろしているんだ。
魂とか幽体離脱とか、そういう非科学的な物はあまり信じてなかったけど、実在するんだな。
となれば、そのうちあの世からの使いがお迎えn
?「ふぅ~。良かった。間に合ったぁ。」
出木杉「!?」
ふいに背後から聞き覚えのある声がした。
キーが低いようで高い、独特のハスキー声。
僕はゆっくり後ろを振り返った。
?「危なかったねぇ。」
青く、丸い顔。
大きな目。
赤い鼻。
頭の頂点には、小型のラバーカップにプロペラを付けたような物体。
22世紀からやって来たネコ型ロボット。
出木杉「・・・・・・ドラえもん。」
ドラえもん「出木杉くん、怪我はない?」
僕は撥ね飛ばされたワケでも、幽体離脱をしたワケでもなかった。
タケコプターを着けたドラえもんに後ろから抱きかかえられ、宙に浮いていたのだ。