「このまま放っておけば、同じ事故が起きて、彼らは命を落とす。
それは本当なら、僕にとっては望ましい展開のはずなんだ」
彼女は何も言わず、黙って話を聞いていた。
視界の端で頷く彼女に、僕はまた懐かしい感じを覚えたな。
「でもさ」と僕は言う。
「そういう悲劇を見逃すには、今日はあまりにもめでたい日だ。
それに僕は、一周目の人生を愛しているのと同じように、
それを再現してる彼らのことも、どっか愛してるところがあるんだよ。
僕も、たまには、二周目らしいところを見せてやろうと思う。
一周目の反省や教訓を活かして、もっと優れた二周目を目指すんだ」
事故現場に到着した僕らは、停電に備えて待機した。
彼女はおそるおそる僕の肩を叩いて、聞く。
「これまでにも、こうやって、人を助けたりしてきたの?」
相変わらず、いいところに目をつけるんだよな。
「いや。これが初めてだね」と僕は答える。
「だから、今やってるのは、あんまり良くないことだと思うよ。
本来、数えきれないくらいの命を救えたはずの人間が、
いまさら自分の助けたい相手だけ助けるなんてさ」
「そっか……私も、これが初めて」と彼女は言う。
「私、二周目に入ってからも、一周目の記憶を使って
何かしようとしたことは、一度もなかったんだ。
今はこんな風になっちゃったけど、本当は、
私、前の人生を、そのまま繰り返そうと――」
「僕もそうさ」被せるように僕は言った。