男「飴ちゃん舐める?」
後輩女「いりません」
男「昨日はあんなに舐めてたのに。キシリトール」ガサガサ
後輩女「ふん。男先輩がそんなに仕事ばかだとは思いませんでしたから」
男「口元に持っていけば食べてくれるかな……あーん」
後輩女「ちょっ!? 運転中に止めてください! せめて赤信号で――」
男「嘘だよ。やらないって……口が開いてるね? 入れてほしかった?」
後輩女「き、期待なんてしてませんから!」
男「あぁそう……うーん、どうすれば君がいつも通りに戻るかなぁ」
後輩女「昨日の今日じゃ、難しい……というか、無理です」
男「来週には戻ってる?」
後輩女「……かもしれません」
男「君のことじゃないに。他人が気にすることじゃないよ?」
後輩女「そうですけど、昨日の男先輩は冷たかったです。もっと言葉を選べたと思います」
男「『はっきり言って』って言われたから言っただけだよ」
後輩女「それでも言い様はあったと思います。男先輩ならなおさらに」
男「それは過大評価。仕事以外では俺に期待しないで」
後輩女「嫌です。わたしの中の男先輩は素晴らしい人間のはずです。素晴らしい人間であるべきです」
男「さっきはばかばか言ってたのに。……素晴らしい人間ねぇ。そうではないことは自信を持って言うよ」
後輩女「わたしはそう思っています。去年の新入社員研修の時から」
男「懐かしいね。去年のことだけど、随分昔のように感じるよ」
後輩女「……い、今だから言います。男先輩が品質管理部だったから、わたしは品質管理部を希望したんです」
男「また物好きだねぇ。じゃあ俺が生産管理部だったらそっちを希望していた?」
後輩女「どうでしょう……男先輩の部署であればどこでも希望したかもしれません」
男「あー、なんかコメントし辛いなぁ」
後輩女「品質管理部の業務の説明だけでなく、目の前にある事象の裏側にある物の考え方とか、それを学びたいと思ったんです。
なんというか……男先輩の説明には全て裏付けがあるんです。単なる希望的観測だけじゃないその考えを、わたしは
していきたいんです」
男「まぁ、品質管理部ではいつもそれを取るために走り回っているわけだよね」
後輩女「昨日の女先輩への言葉にはそれがまったくありませんでした。もちろん仕事ではなくプライベートな内容ではありますけど、
そこが男先輩らしくないと感じてしまいました」
男「………………」
後輩女「済みません。出しゃばった言い方ですよね? でも、わたしは、丁寧に説明してくれる男先輩が『いつも通り』の男先輩だと
思っています」
男「そうか……うん、ごめん。俺も今日は『いつも通り』じゃなかったね」
後輩女「謝罪してほしいとは言いません。男先輩は相変わらず『いつも通り』にしてください。女先輩にも、もちろんわたしにも」
男「あぁ、わかったよ」
後輩女「でも、わたしに何かしてくれると言うのであれば、わたしとしてもやぶさかではないですよ?」
男「お、君は『いつも通り』になってきたね。じゃあ、俺は何をすれば良いのかな?」
後輩女「……飴ちゃんをください」
男「飴ちゃん? はいどうぞ」
後輩女「………………」
男「……? はい飴ちゃん」
後輩女「……あーん」
男「あぁ、なるほどね……あーん」
後輩女「ん……美味しいです」
男「はい恐縮です」