曹長「流石は『自動操縦』、こうもあっさり見つかってしまいましたか……」
のび太「何処へ着くかと思ったら……また君か……」
曹長「まさか懲りずに私の元へ来るとは……単純な機械に頼ってしまいましたね」
のび太「ああ……それならもうどうでもいいんだ……」
曹長「とうとう諦めましたか……どちらにせよ、その受信機が付いている限りあなたは何も出来ないでしょうからね」
のび太「二人を助けられなかったのが何より残念だよ……」
曹長「では大人しく貴方がボスから奪った道具を返してもらいましょうか」
のび太「何を言っているんだ?」
曹長「往生際の悪い…ッ!」
曹長「今自身で何と言いましたッ!?勝負などどうでもいいと仰ったでしょう!」
のび太「どうでもいいって言ったのは…この勝負の決着がついたからさ」
曹長「!?」
曹長はのび太の発言にたじろいだ
それはのび太の顔付きがさっきまでの疲弊したものでは無く
清々しい爽やかな顔であったからに他ならない
曹長〈馬鹿な…ハッタリに決まっている…!〉
のび太「もう一度言う。勝負は終わりだよ」
のび太「君は僕の不意打ちに身構えてずっとその姿で隠れていたのかい?」
曹長「……それが、どうしたと言うのです…」
のび太「僕はね、君がそうやって息を潜めている間『休憩』していたんだ」
曹長「……ずいぶんなめられたものですね、お友達が命の危険にさらされているというのに」
のび太「いいや、君が言ったんだ『僕を倒す術が無い』と」
のび太「だからお言葉に甘えて休憩させてもらったよ。君は僕から逃げる事しか出来ないからね」
曹長「ほう、しかし再び私を見つけたところで殴る術は無く……貴方の行動も徒労に終わると思いますが…?」
曹長「さぁ、もうひと運動してもらいましょうか!!」
のび太「もちろんそうさせてもらいたいのは山々なんだけど…」
曹長「………どうした、何故動かない」
のび太「この『人間リモコン』…君を殴らせようとしないんだよ。どういう事かわかるかい?」
のび太「君を『脅威』だと認識しないんだ。今は他の人に助けを求められるまでじっと待っている感じだ」
曹長〈このガキ…!〉
今までの落ち着いた態度から打って変わり
曹長が口調を荒らげる…!
曹長「まだ『トロリン』の効果は続いているんだ!さっさと負けを認めたらどうだ!!」
のび太「それだ……!」
曹長「……!?」
のび太「君のその『トロリン』がいけない……」
曹長「聞き分けの悪い……!!」
のび太「さっき確認したんだけど今日が何月何日で……今、何時か知っているかい?」
曹長「……?」
7月13日の午後2時…
真夏の兆し、プール開き真っ盛りの時期である
のび太「最近授業で耳にした知識なんだけど、人間の体の半分以上は『水分』で出来ているらしいね」
のび太「この、日差しが照りつける中、道路の温度も相当なものだ、君はその上で長い時間水溜りになっていた」
のび太「さっき休憩しながら思ったよ、君の体の水分はもう大分無くなっているんじゃないかってね」
曹長「ばかばかしい……生命維持が困難な程に私の体内の水分が奪われたと?ありえないな!」
のび太「もし『自覚』が無かったとしたら……?」
曹長「………!」
液体となった体に喉が『渇く』という感覚が果たしてあるのだろうか…
そしてのび太を操る人間リモコンの自動操縦が作動していない現実
曹長は自身の顔が不安と恐怖で引きつっていくのがわかった
曹長「く…くそ…そんな、そんな馬鹿な事があるはず…無い!」
のび太「……実体化するならどこか水のある場所をお勧めするよ…」
曹長「そんなハズは無ァい!!!」
のび太「駄目だ!こっちに来たら…!」
曹長「うわぁぁぁぁ!!?」
曹長の体がみるみる蒸発していく…!
曹長「これはッ!?マンホールッ!!?熱いッ!!!か、体がァ!!!」
曹長「アアアアァァァァ……」シュウゥゥゥ…
のび太「……お互い自分の道具に負けるなんて…皮肉なもんだ」
しかし敵を倒したところでのび太は『人間リモコン』に操られるがまま…
先ほどの様な恩を受ける事が今後も無ければ餓死するまで彷徨う事になる……
のび太は再びどこかに向かい走り出した…
のび太〈稲妻ソックスで町を駆け抜けるのは気持ちがいいなぁ…〉
のび太〈けれど道具を使うだけで……自分から何かしようとした覚えがあんまり無いな…………〉
のび太〈ドラえもんも愛想を付かすわけだよ……〉
のび太〈あれは………見覚えのある人影だ……あの下品なヘアースタイル…〉
のび太〈スネ夫みたいな髪だ………スネ夫?〉
のび太「……スネ夫!?スネ夫なのか!?ジャイアンは、ジャイアンはどこだ!?」
のび太の目の前には
泣き崩れたスネ夫がいた
スネ夫「あああ~のび太~…ジャイアンを…ジャイアンを助けてくれよぉ~」
のび太「落ち着いて!…それより君、スネ夫なのか!?元に戻ったんだね!?」
スネ夫「ジャイアンが身を徹して爆発から守ってくれたんだ……」
スネ夫「僕は上着が破れただけで済んだけど…ジャイアンがぁ…うわあああん!」
のび太「僕の額に付いたこの受信機を…外してくれないか?」
スネ夫「そんな物外してどうするんだ……?」
のび太「ジャイアンを……助ける!!」
スネ夫「ほ、本当かい!?ジャイアンは助かるのかい!?今外すよ!」プチッ!
のび太「良し!……腕さえ動かせれば!」
のび太はとりよせバッグからボロボロのジャイアンを取り寄せ
タイム風呂敷を被せた
ジャイアンの傷口がみるみる治っていく…
ジャイアン「……のび太!スネ夫!無事か!」
スネ夫「それはこっちの台詞だよ!」
ジャイアン「おお心の友よ!!」がしっ!
のび太「ちょ、ジャイアン…痛いってば…」
―――敵も諦めたのか
その後、ドラえもんの部下達の猛襲が続くことは無かった。
今朝からの怒涛の追撃をとうとう退けた事を実感した三人は
安堵の胸を撫で下ろすのであった。