本当に悲しい時、人は声なんて出ない。
ただ、立っていられなくて、その場に座り込んで、涙が止まらないだけだ。
彼女の言葉が綴られたそれを握りしめ、彼女の部屋でオレは動けなくなった。
彼女の母親が、背中を丸めたオレに色々と話してくれた。
彼女の病気の事や、彼女が嬉しそうにオレの事を家族に話したことなどを。
手紙の文字は、いつか見た凛とした文字ではなかった。
小学生が鉛筆を握りしめ、必死に書いたような文字だった。
彼女が手紙を書いたのは、夏の初めだったという。
オレの電話の後、必死にこれを書いて、
そして夏の終わり、病気は心臓まで達した。
ポケットの小箱は彼女には渡せなかった。
手紙を持っていくかわりに、彼女の部屋の机に置いた。
自分の家の庭で、彼女の手紙を燃やした。
再会したら、どんな理不尽な事な我儘であっても、聞いてあげようと思っていたから。
炎は綺麗な白い紙をあっという間に飲み込んだ。
灰色の煙はゆっくりと空に昇って行った。
彼女の躰はそこには無いのに、その煙は彼女の最後の煙のような気がした。
それからオレはずっと空を見ている。
彼女が昇っていった空を。
何度悔やんでも悔やみきれない。
なんであの時別れてしまったんだろう。
無理にでも彼女の家に行けばよかった。
彼女を救うことは出来なかっただろう。
でも、彼女ずっと抱きしめることは出来た筈だ。
最期の瞬間も抱きしめていることが出来たかもしれないのに。