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夜だというのに、外はどんどん騒がしくなるばかりだった。
気が付けばオレの襟はまた濡れていた。
目の前の名前も知らない女が、オレにハンカチを差し出した。
女「・・・あなたは、幸せだと思います。そんなに誰かに愛されることって普通は無いですから」
男「・・・・・そうですね」
女「でも、今のあなたを見たら、その人はきっと怒ると思います」
男「オレは・・・・怒られても嫌がられても、あの時別れないで彼女に寄り添うべきだったんです・・なのに・・」
女「そうじゃないです。それは違います」
男「・・・え?」
女「その人が、なんで別れようって言ったか分からないんですか?」
男「・・・それは」
女「もし、その時別れずに、あなたがその人の最期を看取っていたら、あなたは大学に入るため勉強しましたか?将来の夢を見つけることが出来ましたか?」
男「・・・・・」
女「打ちひしがれて、悲しみに支配されて、きっとあなたは立ち止まっていた。今のように」
男「・・・・・そうかもしれません」
女「その人は、きっとあなたがちゃんと前に進んでいくことを願っていると思います」
男「・・・オレは・・・」
女「あなたの愛した人が、命懸けで守ったあなたの将来を、あなたが台無しにしては、ダメです」
男「・・・・・・はい」
女「男さん・・・でいいんですよね?」
男「はい」
女「まだ自己紹介してなかったですね。私の名前は女って言います」
男「・・・え?」
女「偶然ですけど、同じ名前ですね」
男「・・・はい」
女「でも、私は、あなたの好きだった女さんじゃありません」
男「分かっています」
女「私はあなたの知ってる女さんの代わりにはなれないけど、あなたの想い出や愚痴を聞いてあげることくらいならできます」
男「・・・いや・・悪いですよ。それにもうこんな時間だ。くだらない話に着き合わせてすみませんでした」