【※クレヨンしんちゃん※】高校生しんのすけ「最後の……最後の夏休みなんだなぁ……。いっぱい思いでつくろうな」

日常


「うわぁぁあ!………って、しんのすけ!いつもいつも普通に挨拶できないのかよ!まったくー」

しんのすけに息を吹き掛けられた首筋を撫でながら僕はしんのすけを睨み付けるようにみた。

「ハハハっ。トオルこそ、毎日毎日俺が息を吹き掛けて耐性つけてあげてるのに全然慣れないんだから。そんなんじゃあ、彼女なんてできないぜ」

「余計なお世話だ」

いつからだろう……。しんのすけが僕のことを『トオル』と呼ぶようになったのは

いつからだろう……。しんのすけが自分のことを『俺』と言うようになったのは


しんのすけとは幼稚園の頃からの幼馴染みだ。

幼少の頃のしんのすけは、いがくり頭のお調子者で、みんなの人気者だった。

成長した彼はいつのまにか僕の身長を追い越した。

いがくり頭だった髪は、今は伸ばしてやや茶色に染めている。

坊主だった頃には気づかなかったが、両親とも天然パーマだった彼もまた、

ふわりとした天然パーマでそれをお洒落にセットしていた。

トレードマークだった太い眉毛も整えられており、小さい頃の面影はあまりないような気がする。

それでもふとみせる表情や仕草は幼い頃と変わっていない。

照れたときにみせる、あの独特な笑いかたを見ると、ホッと安心させられる。

「明日から夏休みだなぁ。高校生活最後の夏休みだ」

しんのすけは晴れた空をみながらそう言った。

その言い方がなんだか少し寂しげに聞こえた気がした。

「そうだな」

僕も一緒に空を見上げる。

僕たちはいつも一緒にいた。幼稚園の頃からずっと一緒に過ごしてきた。

ボーちゃん、ネネちゃん、マサオくん、そしてしんのすけと僕の五人は小学校、中学校も一緒たった。

しんのすけは、さほど勉強は好きではなかったけど、

なにか、例えば、成績が10位以内に入れば欲しいものを買ってあげる…とかいう親の約束があった場合は、

担任や僕らが驚くくらいの点数で成績ドップになることもしばしばあった。

しんのすけは、この五人でいることが好きだったようだ。

もちろん僕もそう思っていたし、他のみんなだってそう思っていたに違いない。

しんのすけの、僕と同じ高校に行きたいという強い思いが他のみんなを奮い起たせ、高校受験にむけ勉強に励んだ。

結果、マサオくん以外の四人は同じ高校に通えることとなった。

ちなみにマサオくんはレベルをいくらか落とした高校に入学することができた。

マサオくんとの交流は今でも続いている。

「最後の……最後の夏休みなんだなぁ……。いっぱい思いでつくろうな」

「なんだよ、しんのすけ改まって…。でも、そうだな。夏休みが終わったら、みんな大学受験にむけて忙しくなって、遊ぶどころじゃなくなるもんなー」

そう、高校を卒業したら、みんな大学へ行き、そして社会にでる。

今までのようにみんなと一緒に過ごすことが出来なくなってしまうだろう。

たから、きっとこの夏休みがみんなと過ごせる最後の時間になるのかもしれない

「バーベキューとか、海とか花火とか……。青春で思い付くようなこと全部やってやろうぜ!忘れられない夏にしよう!」

「ああ、いっぱい青春しなくちゃな」

「おっ……」ドス

急にしんのすけが変な声を出しておしりを押さえた。

振り返ると、しんのすけの妹のひまわりちゃんが笑顔で立っていた。

「あっ風間さん、おはようございます♪…………おにいちゃん!これ、忘れ物!!」

「おお!うっかり忘れてたぞ」

「まったく。おにいちゃんいつも忘れるんだらか。じゃあね。風間さんもまたね。夏休みもいっぱい遊びにきてね///」

元気いっぱいのひまわりちゃんは僕たちに手を振るとスカートをひるがえして

前を歩く女の子の友人のもとに走って行ってしまった。

彼女もまた成長したなぁと思う。天然パーマの柔らかい長い髪はかわいく成長した彼女にすごく似合っていた。

「ひまわりはまだ中学生ですぞ」

「うん、そうなんだよなー///って………知ってるよ。そんなの」

「トオル、ひまわりのこと好きでしょ?さっき顔赤くなってたぞ」

「そっ……そんなんじゃないよ!確かにひまわりちゃんはかわいいけど///!」

「照れちゃって…でも俺、トオルだったらひまわりと付き合ってもいいぞ。トオルだったら信頼できるし、安心できるそれにひまわりもトオルのこと好きだと思うぞ。兄の目から見てもひまわりはかわいいし。それに………おっぱいも結構大きいんだぞ」

「!!!」

「あっ、今想像しただろう?やっらしー」

あの夏 確かに僕たちは一緒にいた。

「あっ。しんちゃんオハー♪風間くんもオハヨー」

教室のドアを開けて席につくと、しんのすけの前に座っていたネネちゃんが振り向いた。

奇跡的なことに、この高校三年間ずっと、僕はしんのすけと、同じクラスだった。

そしてこの三年生で初めて、ボーちゃんとネネちゃんとも一緒のクラスになることができた。

「明日から夏休みよー。あっねぇ今日みんな空いてる?終業式終わったらカラオケいこーよ。マサオのバカにはボーちゃんからメールするから」

「いいよー」

ネネちゃんは小さい頃からそうだったけれど、更に我の強い女王様タイプの女性に成長した。

顔立ちはきれいな方で、男子の人気も非常に高いがその性格のせいであまり人が近寄ってこない。

だけど本人はあまり気にしてはいないようだ。

無理をして友人を作る方がストレスがたまるし、うさちゃんもボロボロになると言っていたのを聞いたことがある。

そんな彼女の、心の許せる時間はやはり、僕たちと一緒にいる時だった。 

「あっ。マサオくんからメールきたっ。」

僕の前の席で携帯を弄っていたボーちゃんは顔をあげてそう言った。

高校生になった彼は、幼い頃見たいに鼻水は垂れていないけど今でも鼻炎の薬は欠かせない。

幼い頃から変わっていないボーちゃんは、美術が得意で後輩からの人気が高い。

昔から珍しい石を集めるのが好きたったボーちゃん。

だけど、あるとき一人で石を探しに山に登ったとき沢で氏んでいる人を見つけてから石を探すのをやめている。

「―――――で、以上を、持ちまして終業式おわりっ!くれぐれも事故のないように注意しろよ!一人でも欠けたらこの俺も悲しむからな!じゃ解散!!」

終業式を終え、みんなで学校をでて目的地のカラオケ屋まで歩いて向かう。

「やっと終わったわねー。教頭の話長すぎー、。校長は空気読んで短かったけど!」

ネネちゃんはしんのすけの隣でブーブー文句を言っている。

「夏休みだなー」

ほのぼのとボーちゃんが呟いた。

「この夏休みくらいいっぱい遊ぼうね!朝しんのすけともしゃべってたんだ。高校生活最後の夏休みだし、忘れられない夏にしようって。なあ、しんのすけ」

「おう!青春を謳歌しようぜ!!」

ネネちゃんはしんのすけの顔を見上げてニコニコ笑っている。

「あっしんちゃん髪になにかついてるわよ。私とってあげる」

「おっ。ありがとう」

ネネちゃんはしんのすけの髪についていたものをとりながら頬を染めている。

ネネちゃんはしんのすけのことが好きなんだと思う。

中学の頃からそう感じている。しんのすけに向けるはにかんだ笑顔や、しんのすけを見つめるその瞳には、

僕たちに向けられているものとはちがう別の感情があるような気がする。

しんのすけは気づいているのだろうか

カラオケ屋の前につくと坊主頭の少年がこちらに気づき駆け寄ってきた。

「あっみんなまってたよぉー」

「おっマサオー♪ぐりぐりぃーぐりぐりぃー」

「やっ…やめてよぉしんちゃーん。もう///」

しんのすけはマサオくんの坊主頭に会うたびに、ぐりぐりとその頭を撫でまわす。

マサオくんは口では嫌がっているが、その照れた表情からまんざらでもないような感じがする。

多分、マサオくんはバカなのたと思う。

「ちょっとマサオくん!なにその汚い靴!ちゃんと洗わないとダメっていっつも言ってるでしょ!足元を綺麗にするのがお洒落の第一歩なのよ!もうっ」

「はっ…はい!ネネちゃんはいつも厳しいなー。あっでもこれ、昨日バイクで転んで汚れちゃったんだ」

「ああ?バイク?あんたまだ、そんな危険なものに乗ってるの?まったく男の子って!!」

「ごめんなさい!でも怪我してないよオロオロ」

マサオくんは子供の頃から全然変わってない。ネネちゃんとの主従関係は今でも継続している。

マサオくんは昔からオドオド、オロオロしていて要領が悪かった。

僕たちと高校でバラバラになってしまうため。いじめられたりしていないか心配だった。

案の定、高校入学当初から、不良グループに目をつけられたマサオくんは、標的にされ壮絶ないじめをうけていたそうだ。

でもあるとき。

不良グループのリーダーが、とある広場でマサオくんを、集団でリンチして山か港に捨てようという

計画を立てたことがあったそうだ。

その広場までマサオくんを連れていくのに、不良グループの、リーダーは無理矢理マサオくんを、

バイクの後ろにのせたそうだ。

だけど、リーダーのあまりにも運転が下手すぎてマサオくんはキレてしまい

無理矢理運転をかわり自分でリンチ広場までバイクをはしらせたそうだ。

その並外れた技術とスピードに魅せられた不良たちは、マサオくんを崇め苛めはなくなったらしい。

そう、マサオくんはバンドルを握らすと性格が180℃豹変するのだ

つまり、マサオくんはやっぱりバカなのだと思う。

「おっ!うっかり忘れてたぞ!今日、うち昼間誰もいなく、ひまわりより先に帰らなきゃいけなかったんだ」

「えーしんちゃん帰っちゃうの?」

「うーん、そうだ。カラオケ、ひまわりもよんでいい?」

「いいわよー。ねえ風間くん」

「そうだよ。いいにきまってるじゃん。さあ早くひまわりちゃんよびなよ。、ほらほら」

こうして、僕たちの夏休みがはじまった。

本当にたくさんのことをした。

僕ら五人とひまわりちゃんは常に一緒だった。

一つ一つの出来事がカメラのシャッターを押すように僕らのなかに思い出として刻まれていく。

みんなで喋り、みんなではしゃぎ、みんなで笑いあったあの夏休み。

みんなで夏祭りに行ったことがあった。

その祭りで開設された『本格幽霊やしき』に入ることになった。

二人一組ではいるため、自然にしんのすけとネネちゃん、僕とひまわりちゃん、マサオくんとボーちゃんのペアになった。

祭りで開設されるような幽霊やしきだからそんなに怖くないだろうと思っていたが予想を越える怖さだった。

だけど暗闇で怖がっているひまわりちゃんの手を握っていたらこの子を守らなくてはという思いが込み上げてきた。

ネネちゃんはキャーキャーと叫びながらしんのすけに抱きついていた。

マサオくんはあまりの怖さに固まってしまい、後ろからきた別の客に蹴り倒されていた。

やっぱりマサオくんはバカなのだ。

祭りのあと花火大会を川辺で見ようとみんなで歩いた。

なんとなくひまわりちゃんと僕は手を繋いだままだった。

しんのすけの腕にネネちゃんは腕を絡ませている。

途中、僕としんのすけの目があったが、しんのすけは口元でにやっと笑っただけだった。

「花火、きれいだなー」

川辺に腰かけてしんのすけがそう呟いた。隣に座っていたネネちゃんが頷く。

「パッと咲いてサーっと散ってく。一瞬なのにいつまでも心に残ってる。いいなぁ花火は……」

まもなく花火大会のクライマックスなのだろう。ドンドンドンと怒ったように打ち上げられる花火は

『私のことを忘れないで』と訴えているようだ。

ふと視界の隅でしんのすけとネネちゃんがキスをしているのがめにはいった。

二人は唇を外すと顔を見合わせて微笑んだ。しんのすけはネネちゃんの肩を抱くと空を見上げて夏を彩る花火をみた。

「おにいちゃん、やるわねー」

ひまわりちゃんが僕の耳元でそう言った。

僕たちはずっと手を握っている。、

「ねえ、風間さん、キス……したことある?」

「えっ!したことないよ!しんのすけとしか!…あっでもあれは僕のファーストキスじゃ……」

言い終わらないうちに突然僕の唇に温かくて柔らかいものが重なった。 

ひまわりちゃんの唇だ。

「ごめんなさい。……でも私風間さんのこと好きで……初キスは大好き人って決めてたから」

花火大会が終わって空が暗くなっても僕たちはしばらく空を見上げていた。

あっという間に夏休みが過ぎていき、たくさんの思い出が蓄積されていく。

河原でバーベキューをしたさいにマサオくんが流れて行ってしまったこともある。

しんのすけとネネちゃんが正式に付き合うことになり、僕とひまわりちゃんもそういう関係になったりもした

自転車でノーブレーキで下りながら大声で叫んだり、海へ行ってスイカのかわりにマサオくんを、打ち付けたこともあった。

全てが僕たちにとって忘れられない思い出だった。

しんのすけのまわりにはいつも笑いがあって、いつも僕らがいた

僕たちは幸せだった。

8月31日。夏休み最後の夜。

20時ころに自宅の電話がなった。ママが応対していたが

「トオルちやーん。しんのすけくんからお電話よー」と呼ぶ声がした。

「しんのすけ?……わかった」携帯の方にかければいいのにと思いながら電話に出る。

『あら、トオルちゅわーん。携帯電源切れてるわよぉーん』

「気持ち悪い声出すなよ。って携帯切れてた?ごめんごめん。ところでどうした?」

『んーあのさ、今から出れない?ネネやボーちゃんたちには声かけたんだ。子供のころ遊んだあの公園で集まろうって。ひまもくるぞ』

「うん、いいよー。なんかするの?」

『メインイベントだよ。楽しみにしてて』

「あっ風間くん」

「こっち。こっち。」

ボーちゃんたちはすでに集まっている。ひまわりちゃんの姿もあるが、しんのすけの姿は見当たらない。

「しんのすけは?」

「ちょっと準備してくるからってどっか行ったの。多分すぐ来るとは思うけど」

子供のころみんなと一緒に遊んだ公園。昔は広く感じていたこの公園は、今はなんだか小さく見える。

「しんちゃん、遅いわねー」

少し寂しそうにネネちゃんが言った。

「でも、メインイベントってなんだろう」

「なんだろうねー。早くしんちゃんこないかなー」

少し無言が続く。

なんとなくみんながしんのすけのことを考えているのだろうと思った。

「しんちゃんって不思議な人だよねっ」

「そうだね。お調子者でいつも元気で、頭の回転早くて、いつもみんなを楽しませてくれて」

「しんちゃん、やさしくて正義感あるしね!ボクが苛められて泣きながらしんちゃんに電話したときもずっと話を聞いてくれたし」

「うんしんちゃんは優しい人よ。一緒にいて安心できるし、そばにいるだけで笑顔になれるの」

「しんのすけはみんなから愛されてるなー」

僕は心からそう言った。

「僕さ、思うんだ。しんのすけがいなかったらきっと高校なんかも別々で、それぞれ友人作ってバラバラになってたような気がするんだ。しんのすけは本当に凄い奴だよ」

「うふふ。なんかみんなおにいちゃんのこと誉めてくれるから、なんかくすぐったいや。でも、あの人の妹でいるのはすごく大変なのよ」

ひまわりちゃんは苦笑しながら公園の入り口に目を向けた。

しんのすけはあらわれない。

「去年ね、うちで飼ってたシロが死んだでしょ。ちょうど春休みで。シロが突然寝たきりになったとき、率先してお世話していたのはおにいちゃんなの。シロは自分の力で立つことも動くことも食べることも出来なくなって、それをらおにいちゃんが一生懸命お世話してたの。自分の部屋に入れて、からだが冷えないように暖めてあげたり、オムツを交換してただれたおしりに薬塗ったり。注射器ですこしづつ餌やお水与えたり。シロガ、クーンとなくと何を訴えているのか、わかるみたいに色々お世話していたんだ」

「春休みがおわる前日の昼に、みんなで看取られる形でシロは息を引き取ったんだけど、私たちが悲しむなか、おにいちゃんは泣きながらも頑張ったね偉かったぞって、シロの小さくなった亡骸を、抱えながらそういってた。おにいちゃんは本当にシロのことすきだったんだなーって、その時すごく思った。シロもこんなに愛されてしあわせだったんだろうなーって私もおにいちゃんのこと大好きよ。色々振り回されて疲れてしまうこともあるけど、おにいちゃんの妹でよかったって思うの」

そういって照れ笑いをしてまた公園の入口を見つめる

みんなで集まって30分以上経過しているのにしんのすけはまだあらわれない

「しんのすけ、おそいなー」

少し不安になり電話をかけようと携帯を取り出したとき

「おーまーたーせー」

としんのすけが走ってきた。 

「おにいちゃん遅い!」

「そうよ、心配したんだからね!」

「ごめんごめん」

ひまわりちゃんとネネちゃんにブーブー言われて困ったようにしんのすけは頭を掻いていた。

「ところで、それ、なに?」

ボーちゃんがしんのすけの持ってる紙袋を指さした。

「これ?………ジャーン!夏の風物詩の花火ぃー。俺思ったんだよ。花火大会には行ったけどこういう手持ち花火をしていないことに!で、記念に写真もってことで、カメラも持ってきた。ポラロイドだぞ」

僕たちはしんのすけの持ってきた花火を楽しんだ。

みんなでたくさん写真を撮る。

花火はあっという間に終わる。

「あのさ、俺、もうひとつやりたいことがあるんだ。俺、本当にこのメンバーが好きなんだ。今年の夏はスゲー楽しかった。絶対忘れたくないし、忘れないでほしいって思った。それでどうしたらこの夏の思い出をとっておけるだろうと思ったらこれが浮かんで……。なんていうのかなー タイムカプセルってやつ?あれだったら今年の夏をそのまま保管できる気がして……俺たちの過ごした証っていうか……この夏俺たちは一緒にいたんだよって…」

しんのすけのしんみりとした口調。寂しげな表情。

どうして彼はこんなにも悲しそうなのだろう。

「タイムカプセルいいと思う!」

「うん、素敵よ」

「おもしろそうっ」

「しんのすけにしてはいい考えだ」

「賛成賛成ー♪」

みんなが口々にタイムカプセルを作ることに賛同した。

しんのすけは安心した表情になった。

「よかった。でさ、タイムカプセルっていうのは手紙が付き物だろう。俺は先に書いてきたからみんなにも書いてほしい。別に誰にあててもいい。自分でも、みんなにあてた手紙でも。俺は埋める穴を掘ってるからその間に書いてて」

そういいながらしんのすけはみんなに、便箋とペンを配る。

「しんのすけ、タイムカプセルはいつ開けるんだ?」

「うーん、そうだな。……10年後。10年後の今日に開けよう」

「よしこれでいい」 

手紙を書き終えた僕たちは しんのすけが用意した缶に手紙を入れて、土のなかに埋めた。

みんな名残惜しそうに公園に残っていたが、やかてそれぞれ家路につく。

「それじゃ みんな元気で!」

と笑っててをふったしんのすけに「明日も会えるだろ!」とわらって別れた。

9月1日

今日からまた学校だ。夏休みを終えた僕ら受験生は更に勉強が忙しくなる。

僕の目指す大学は一応合格圏内ではあるが油断は禁物だ。

いつもの時間に家をでて、いつものペースで歩いてたはずだった。

だけど、学校が近づいてきてもしんのすけはあらわれない。

どうしたんだろうと後ろを振り返ると、ひまわりちゃんが走ってくるのが見えた。

「おはよー風間さん」

「おはよー。ねえ、しんのすけは?」

そう問うとひまわりちゃんはキョトンとした顔をして僕の顔をみた。

「しんのすけ?友達ですか?私、そんな人知りませんよー」

冗談を言ってるのだろうと思った。それともけんかでもしたのかと。

「ひまわりちゃんのおにいちゃんだろ?」

「なにいってんですか?私におにいちゃんいないの知ってるくせに。私は一人っ子ですよーだ。昨日、帰り遅かったから寝ぼけてるの?」

ひまわりちゃんはなにを言っているのだろうか。

それともひどい喧嘩でもしたんだろうか?

教室のドアを開け、自分の席へ向かう。

ネネちゃん、ボーちゃんはいたがしんのすけの机はぽっかりと空いていた。

「あっ、風間くんおはよー♪」

「おはよ。」

「おはよー。ねぇしんのすけは?」

「しんのすけ?誰それ、別のクラスの子?」

「えっ?なにいってんの?しんのすけだよ。野原しんのすけ!ひまわりちゃんといい、ネネちゃんといい、しんのすけと喧嘩でもしたの?」

「だから、そんな人知らないわよ!風間くん夏休みボケ?」

僕は混乱した。なぜみんなしんのすけのこと知らないというのだろう。

「しんのすけだよ?昨日も一緒に過ごしたじゃないか」

「なにいってんの?昨日は私とボーちゃんとマサオにひまちゃんの五人だけだったでしょ」

「そのとーりっ」

みんななにをいっているのだろう。僕には訳がわからない。

「ネネちゃんの彼氏だよ?僕らの幼馴染みの……」

「私に彼氏なんていないわよっ」

埒があかないと思った僕は携帯を取りだし、しんのすけに電話をしようと思った。

だが、電話帳をいくら探してもしんのすけの名前は出てこない。

「なんで……」 

僕はしんのすけの自宅に電話をかけることにした。小さいころ何度もかけたその番号は今でも忘れずに覚えている。

『はい、野原です』しんのすけのママの声。

「あっ、風間です。しんのすけお願いします」

『えっ?しんのすけ?うちにはそんな子いないわよ?風間くんもしかして間違い電話?』

頭が真っ白になった。何故みんなしんのすけのことを忘れてしまったのだろう。

まるで最初からしんのすけなんて存在しなかったように。

しんのすけの寂しげな表情を思い出した。

忘れられない夏にしたい……そう言っていたしんのすけ。

彼はどこにいってしまったのだろう

家に帰ってアルバムをめくってみた。でも写ってるはずのしんのすけの姿はどこにもない。

何故?

どうしてしんのすけのいた証がすべて消えているのだろう

僕はみんなで埋めたタイムカプセルを思い出した。

『今年の夏をそのまま保管できる気がして。俺たちの過ごした証っていうか…この夏一緒にいたんだよって』

寂しそうで悲しそうだったしんのすけ

もしかしたら、あのタイムカプセルだったら、しんのすけのいた証が残っているのでは……そう思った。

だがいま開けてしまうと、僕もしんのすけのことを忘れてしまう気がした。

しんのすけが何故あんなにも思い出を作りたかったのか。

忘れないでほしいと言っていたしんのすけ。

ボクまでもがしんのすけのことを忘れたら、しんのすけが、かわいそうな気がした。

日曜日、僕はひまわりちゃんと会う約束を、していた。

いつも元気いっぱいの彼女が今日はなんだか寂しげに見えた。

「この間、風間さん私に変なこと言ったでしょ?あれ?しんのすけは?って。君のお兄さんのしんのすけは?って」

うつむき加減にひまわりちゃんはそう言った。

「風間さん変なこと言うなって。私が一人っ子たって知ってるのに。それをね、うちに帰ってママに言ったんだ。風間さんがこんなこと言うんだよーって。そしたらママ急に真顔になって……」

そこで息をひとつはくと、握っていた僕のてに力を込める

「私にはおにいちゃんがいたんだって。とはいっても産まれてはないけど……生まれる少し前にね、買い物に出掛けてたママがバイクに乗ったひったくりあって、倒れて流産しちゃったんだって。産まれてたら多分風間さんと同じくらいよ。ママたちは名前まで考えていたんだって。それが……しんのすけ……。風間さんの話を聞いて、ママ泣きながらそういってた。ママね、しんのすけがずっといるような気がしてたっていうの。いがぐり頭で眉毛が太くてお調子者のしんのすけがずっといるような気がしてたって三人じゃなく四人でずっといたような気がするって。でも、夏が終わってからそれがなくなった感じがするって……」

「私もなんだか夏が終わってからポッカリ穴が開いた感じだった。今年の夏はすごく楽しかったからきっとそれのせいだっておもってたけど。なんだかすごく大切なものを忘れてる気がするの。家にいるときもパパやママが揃ってるのに、誰かを探している自分がいる。私だけじゃなく、パパもママも。きっとママのいうように最近までおにいちゃんがいたんだって感じるの」

その夜僕は夢を見た

『よっ』

しんのすけは悪びれもせず手をあげて挨拶した。

成長したしんのすけではなく、幼少のころのしんのすけだ。

いがぐり頭で眉毛が太くて、いつもの赤いシャツに黄色いズボン。パンツはアクション仮面で……

「よっ!じゃないよ!今までどこにいってたんだよ!みんなしんのすけのこと忘れてるぞ?ボク以外のみんなお前のこと知らないって言うんだぞ!」

『うーん、でも風間くんが覚えててくれるならそれでいいぞ。オラ、この世界に産まれる予定ではなかったんだし』

「しんのすけ…。でも僕は小さいころからお前と一緒たったじゃないか!小さいころから、大きくなったしんのすけのこと知ってる!」

『オラ、楽しかったぞ。みんなと過ごせて。オラ、母ちゃんのお腹のなかで死んでから、母ちゃんが心配だったんだぞ。母ちゃんずっと泣いてたから。だから少しの間って約束でこの世界に存在していいことになったんだぞみんなのと過ごせて楽しかったぞ。オラが、消えてしまったみんなオラのこと忘れてしまうことはしってたぞ。でも、やっぱり忘れてほしくなかったから風間くんがオラのこと覚えててくれてうれしかったぞ』

「しんのすけ……僕は絶対忘れない。お前のこと」

『ありがとう』

しんのすけは照れた笑顔を浮かべながらきえた

それ以来しんのすけが現れることはなかった

10年後

暑い日差しのなかみんなが集まった。

僕、ひまわり、ネネちゃん、ボーちゃん、マサオくん。

そこには当たり前たがしんのすけの姿はない。

僕は長年付き合っていたひまわりと結婚していた。今、ひまわりのお腹のなかには子供がいる。

ボーちゃんは若くして大学教授になり、一度はやめていた石についての研究もしている。

ネネちゃんはいまだ独身である。ネネちゃんもまた、しんのすけが消えてからポッカリ穴が開いたようだと、

とっても好きな人がいたような気がするのに思い出せないと言っていた。

マサオくんは大学に何回も落ち、就職することも諦め、コンビニでバイトをしながら親のすねをかじっている

「タイムカプセル…いよいよ開けるときがきたわねー」

「でも誰がタイムカプセル埋めようっていいだしたんだっけ?ボク全然おもいだせないやー」

「ぼくも」

「私も。でもずっと何かを忘れてるような気がするのよね。こう、みんなで集まっても一人足りないって気がするの。そう思わない?風間くん」

そうだね、だってしんのすけがいないんだから。

土を掘り返しタイムカプセルを取り出した。

10年という年月のせいか缶は少しさびついていたが中身は無事だった。

使った線香花火。アクション仮面の人形。そのうらにはしんのすけと名前が書いてあった。

みんなで撮ったポラロイド写真。そのすべてにしんのすけがうつっていた。

「誰だろう。この男の子」

「でもすごくなつかしい感じがする」

「写真のなかの私たちすごく楽しそう。ずっと仲良しだった気がする」

「私たち、すごく大切なものを忘れていた気がする。この子をみてわかった気がする……」

ネネちゃんは写真を見つめながらスーッと涙の粒を落とした。

写真の中でしんのすけはいつも笑っていた。

あの夏の思い出はタイムカプセルのなかで消えずに残っていた

手紙を見つけた。しんのすけの手紙。

そこには簡単にこう書いてあった。

『この夏をみんなと過ごせて楽しかったみんながおれのこと忘れてもおれはみんなのこと 忘れない』

…………………

あれから数ヵ月後、ひまわりは無事男の子を出産した。

僕たちは子供の名前を、『しんのすけ』と、命名した。

しんのすけは今5才。

いがぐり頭で太い眉毛、彼はお調子者で人気者の―――――。

おわり

出典:http://esusokuhou.blog.jp/archives/19506024.html