男(昨日僅かに俺の脳内に浮かんだ仮説は、これによって急激に真実味を帯び始めた)
男(俺ではない、俺に似たナニカ……その目撃情報が、三日連続で、俺の耳に入ってくる)
男(信じられない。こんなものは馬鹿げている。けれど、この状況が、それを疑うことを許さなかった)
先生「信じられないかもしれないが」
男「………」
先生「君には、夢遊病のケがあるようだ」
男「………」
先生「ご家族にも連絡を入れる。一度、精神科へ行くことをおすすめするよ」
男「わかりました、ありがとう、ございます…」
男(ドッペルゲンガー)
男(曰く、自分そっくりの姿をした分身)
男(その存在は古来より認知され、今や世界クラスの都市伝説として名を馳せている)
男(ドッペルゲンガーに出会ったものは、死ぬ―――)
男(怪談という類のものにそう詳しくない俺でさえも、知っていることだ)
男(……この仮説が正しいのかどうか、俺にはわからない)
男(俺のことが嫌いなやつの、悪質ないたずらだという可能性だってあるし)
男(あいつらが共謀して、俺を嵌めようとしているのかもしれない)
男(また、女のそれは幻覚で、委員長と先生のは夢だったということもある)
男(どちらにせよ、俺のドッペルゲンガーとやらには……なるべく遭遇しないよう心がける必要があるだろう)
男(デパート→公園→商店街……)
男(この不気味な状況をなお一層際立たせているのは、”俺”が目撃されている場所の順番だ)
男(だんだんと、学校に……ひいては、俺の家に近づいてきている)
男(駅は学校の南にあり、俺の家は学校の北にある)
男(……明日で目撃情報が止めば、特にこれといった心配も起きないんだけどな)
男(“出会う”……この言葉の指し示す意味が、どれだけ広いかはわからないが)
男(恐らく、俺が”俺”を認識した時点でアウトだろうな……)