カホのせいで家の中の空気が、変化していくのを私は感じとっていた。
重くのしかかるような空気が、家全体を覆っていく感覚には覚えがある。
この家が私にとって、心安らぐ場所だったのはいつのころだったのだろう。
ここのところ、まどろみの中で『母』をさがす夢を見る。
この日もずっと『母』をさがしていた。
だけどなにか大きな音がして、唐突に現実に引きずり戻された。
からだを起こして、机のうえの目覚まし時計を確認する。
時刻は夜中の二時だった。
音はリビングから聞こえた。
私がリビングへと駆けつけると、父とカホがいた。
カホは床に座りこんで頬をおさえていた。
「な、なにがあったの?」と私の問にはふたりとも答えなかった。
「お前が悪いんだ……」
父の顔は怒りに強張っていたけど、同時に紙のように白かった。
やせ細って骨ばった父の拳には赤い液体がこびりついている。
呆然とする私を父が横切ってリビングから出ていく。
「どこへ行くの!?」
私は父を問いただすために追おうとして、結局やめる。
カホの様子を見ることを優先した。