「大丈夫?」
唇の端が切れていた。
父がカホに手をあげたことに、私はなぜかショックを受けていた。
「言いすぎちゃったのかな。怒らせちゃったみたい」
カホがおかしそうに笑った。
笑うと唇が痛むのか、その微笑はいつもとちがっていた。
「またなにか言ったの?」
「少し注意しただけだよ、わたしは」
「それだけで手をあげたって言うの、あの人は?」
「そういう人でしょ、あの人は。
あなただってそんなことぐらい、わかってるくせに」
私は肩をかして、ソファにカホを横たわらせた。
「前にも聞いたけどさ。なんであんな人と結婚したの?」
カホが答えようとしないので、私はそのまま続ける。
「あの人はクズだよ。お母さんだってあの人のせいで……」
「そうだね」
カホは自分のお腹に手をおいた。
「あの人は奥さんがいても、平気で不倫とかしちゃう人だからね」
母の生前、父が不倫をしていたことを私は知っていた。
そして、その不倫相手の一人が目の前の女なのだ。
「わかってたんでしょ? 」私は言った。
「アイツが人間としてどうしようもないクズで、最低なヤツだって」