「もう、どうしたらいいのかわかんないよ……」
知らず知らずのうちにあふれてきた涙は、なかなか止まりそうになかった。
そんな私の手を、後輩は両手で包んでくれた。
「大丈夫ですよ、先輩」
後輩の手は暖かかった。
私は彼を見あげた。
後輩はさわやかに私にむかって笑ってみせると、
「先輩、大丈夫ですよ。俺がついてますよ」
その言葉がどういう意味なのかを聞き返そうとする前に、後輩の手が離れた。
彼は照れくさそうに笑っていた。
「じゃあまた今度会いましょう」
「……うん」
後輩とわかれて帰途につく。
私は彼が握ってくれた手に自分の手を重ねた。
彼の体温が逃げないように。
家に帰ると、カホがいつもどおりに私をむかえた。
父が死んでからもその笑顔は相変わらずだった。
「おかえり。今日は遅かったんだね」
「うん、まあね」
「なんだか気分よさそうだね。いいことでもあった?」
「べつに」
「この前、結婚について少し触れたけど、まだ細かいことは話してないでしょ」
そういえば、父が死んでからもうすぐ半年、つまり六ヶ月が経過しようとしていた。
「今度、私のその結婚相手の人に家に来てもらおうと思うの」
「そう、どうぞ勝手に」