「このことは友達にも知り合いにも、誰にも話してない」
「あなたもおかしいって自覚はあるんでしょ?」
「……」
「だから誰にも言えない。私の言ってること、まちがってる?」
カホが押しだまる。
「そうね、ユイちゃんにはわからないだろうね」
「わかりたくもないね」
私は席を立った。
料理はまだ残っていたけど、食欲は完全に消え失せていた。
部屋を出る直前に背後で「おやすみ」と聞こえたが
扉をしめてそれをさえぎった。
この日はさっさとベッドで寝て、最悪な夜を短くした。
今から考えれば、まだこのときはよかった。
すくなくともカホは、私の中で非常識な女で終わっていたから。
その認識がまちがっていたと気づいたのは、次の日からだった。
次の日。
満足に眠れなかった私は、寝ぼけたまま一階へおりた。
リビングに入ろうとドアを開けたら、カホが扉の前にいた。
思わず出そうになった声を、なんとか飲みこむ。
「おはよう」
私はカホを無視して、そのまま彼女を横切ろうとした。
だけどカホに腕をつかまれて、とまらざるをえなかった。
「おはよう、ユイちゃん」
カホがにっこりと笑った。
昨日のことなど、まるでなかったように。
「おはよう」とさらにもう一度、彼女が言う。