「平泳ぎ、上手ですねえ!」
(うわっ!僕パンツはいてないんだよ。あんまり近づかないでよ…… にごり湯だから見えないだろうけど)
「あ、はい(汗)、一応スイミング通ってたので……」
女性がゴーグルをはずすと、なんか見覚えがあるような……。
相手もなんか気付いたみたいだった。
「あれ!?○○塾の、……美咲先生!」
女性は隣の市にある塾の先生だった。
僕は長期休暇のときだけ、その塾の講習会に参加していたのだ。
その塾には、他にも同じ名字の先生がいたので、皆「美咲先生」と名前で呼んでいたのだ。
授業もわかりやすく、相○紗季ちゃん似で人気のある先生だった。
「ん、君はええと……」
「斎藤です、斎藤修。春期講習で先生に教わりました」
「あー、春期講習でねー。家、この近くなの?」
「はい、すぐそこです」
「私も実家がこの近くなの。ふだんは大学近くのアパートなんだけど。最近毎日泳ぎに来てるの」
美咲先生は大学生なのだった。塾はバイトだったのか。
「先生、僕もう上がりますから。さようなら!」
やはり相手が水着を着ていて、自分が裸というのは、なんとも落ち着かないものだ。午後8時をすぎて、辺りはすっかり暗くなっていたし、お湯はにごっているので、実際は見えないはずなのだが。挨拶もそこそこに、僕はプールを上がると男湯へ駆け込んだ。
翌日も一人でその温泉へ行った。2日連続なので、入浴料をくれるとき、母はちょっと渋い顔をしたのを覚えている。