たぶん無言だったと思う。
結局、顧問は最後まで
部室に来ることはなく
現像作業は無事終わった。
きっと彼女の転校を知ってて
見逃してくれたんだと思う。
当時からお爺ちゃん先生で、
今はもう他界してるから
真相は聞けないんだけど。
そして
一人3枚合計6枚のプリントが仕上がると
彼女はその裏にメッセージを書き始めた。
そのメッセージが今、俺の手にある。
俺の写真の裏に
「先輩、大好きです! 後輩より」
ツーショット写真の裏に
「いつかまた会えるといいな……日付」
俺も彼女に渡す写真の裏に
何か書いたハズなんだけど覚えてない。
思い出せないということは、
たぶん恥ずかしいことを書いたハズ。
できれば一生見たくない気がしないでもない。
俺 「あのさ、また会えないかな?
春休みとかさ……」
彼女「たぶん無理です……遠いから……」
俺 「そっか……」
この時点で相当落ち込んだ俺。
涙目に涙声だったと思います。
そしたら彼女がカバンから
ゴソゴソと何か出してきたんだ。
彼女「先輩、あの……コレ、受け取ってください」
俺 「何?」
彼女「ちょっと早いけど
バレンタインのチョコです……
だから……次に会うのは
10年後のホワイトデーとかどうですか?」
俺 「う、うん、そうだね……」
彼女「はぃ……では10年後のホワイトデー、
この時間にあの公園で……約束ですね」
彼女はそう言うと
ツーショット写真のメッセージに
「20xx年3月14日xx時」と書き足した。
でも、その頃の俺には10年なんて
とんでもなく遠い時間に思えたんだわ。
だから体よく拒否られた上に
気を使ってフォローまでして
もらったと思いました。
そんなわけで写真もチョコも
部室に放置したまま家に帰ったと…
結局その日以降、
中学には一度も行かなかったけど、
高校受験は婆ちゃんや先生に
説得されてなんとか地元の
底辺私立男子校へ潜り込んだ。
当時の俺は制服女子の姿を見るだけで
彼女のことを思い出して
涙ぐむようなトラウマ状態だったから
男子校は思ったよりも居心地がよかった。
今考えると厨坊の分際で
恋愛絡みの不登校とかとんだマセガキ。
というか免疫不全で
重症化したんだろうね。
そんな俺も最終的には
彼女を憎むことで状況を克服したと。
なんでそういう結論に
達したのかわからないけど、
きっとそれが一番楽だったんだと思う。
そして彼女のことを忘れるために
家にあった部活関係のモノは
すべて処分した。