バイク通勤の帰り道、濡れたマンホールを踏んで転倒、ポールに頭部を強打して亡くなったという。
その話を聞いて俺の頭の中は真っ白になった。
俺にとっては、彼女がまだバイクに乗っていたのも驚きだった。
俺は彼女の死に顔は見ていない。
叔母さんが「あの子は次郎ちゃんにだけは見られたくないと思うの。その代わり、これを持っていてあげて」
そう言うと金色の所々鍍金の剥げた鍵を渡された。
それは、俺が大学3年の夏、田舎に行く前にメットとジャケットを買い揃えた時に
彼女が「この鍵可愛い」と言うので、プレゼントしたCB400SFのスペアキーだった。
CB-1が車検切れになって新車購入した、その時のバイクに乗り換えてから大分経つが、
ずっと使い続けていたんだ。
「俺が姉さんにバイクなんか教えなければ・・・」
「いいえ、バイクに乗るようになって、引き篭もりがちで、
大人しかったあの子は元気で明るくなったわ。
叔母さん感謝してるの、
それに、結婚したんだからバイクは止めなさいと言ってたんだけど、
バイクに乗っている時は次郎ちゃんと一緒にいるような気がすると言っていたわ・・・」
叔母さんはそう言うと泣き崩れてしまった。