その後、親父や叔母さん夫婦から色々な話を聞いたよ。
なぜ、あの夏以降彼女が連絡を絶ったのか、なぜ、急いで結婚したのか。
母の彼女に対する微妙な態度の理由も、親戚の俺たちを見る微妙な視線の意味も、
親戚中が俺が彼女に逢うのを妨害した理由も全てがつながった。
田舎に行った夏、東京に帰った後、
妊娠が発覚して彼女が1人で子供を堕ろしにいった話を
叔母さんの口から聞いたときは涙が止まらなかったよ。
子供好きで、結婚したら子供は2人で、妹や友達が遊びにこれる家を買って、
子供が大きくなったら家族4人でツーリングして・・・と、楽しそうに語っていた彼女が・・・。
その後しばらくの間、俺は連日連夜三京や首都高湾岸線、環状線を逝かれたスピードで飛ばし続けた。
覆面も事故も何も怖くなかった。なにか、もう全て麻痺していた感じだな。
前のように鬱になった訳ではなかった。悲しいという気持ちも確かにあったけど、
何か怒りのような凶暴な感情に囚われていた。
昼間、街中で仲の良さそうなカップルを見ると無性にぶちのめしたくなった。
夜、一人でいると、じっとしている事ができない。
回りの物を全てぶっ壊したくなる衝動に駆られたよ。
俺が毎晩狂った走り方してるのは仲間にも知れ始めていた。
俺のC型ZZRを見かけた仲間は絶対事故って死ぬと思ったそうだ。
まあ、よく事故って死ななかったものだと自分でも不思議に思うよ。
首からぶら下げていた彼女の鍵がお守りになっていたのかね。