のび太「………………」
ドラえもん「ほら起きて」
のび太「………………」
ドラえもん「のび太……君?」
ドラえもん(何かおかしい、この前までは僕が起こされる位に早起きだったのに)
ドラえもん「ママちょっといいかな」
ママ「何よ朝は忙しいんだから早くのびちゃんを起こしてきて頂戴」
ドラえもん「その、のび太君が起きないんだ」
ママ「あら珍しいわね。でもたまにはそんな日もあるでしょう」
ドラえもん「だけどいつもと何か違うんだ。なんて言えばいいか分からないけど……とりあえず来て」
ママ「まったくしょうがないわねぇ」
ママ「のびちゃん、早く起きなさい、学校に遅刻するでしょう」
のび太「………………」
ママ「パパはもう会社に行ったわよ」
のびた「………………」
ママ「返事をしなさいのび太!」
終始無言を貫くのび太君に腹を立てたらしく、ママは布団を荒々しく剥いだ。
そこで初めて気づいた。
さっき感じた違和感に。
ドラえもん「……目が、死んでる」
もちろん実際に心臓が止まり人体の機能が停止した訳ではない。
正確に言えば虚ろ、という言葉が適切なのだろうか。
一瞬たじろいだような様子を見せながらもママはのび太君に歩み寄る。
ママ「早く学校に行きなさい!」
のび太「………………」
ママ「この子はッ!」
その後のことはよく覚えていない。
ママが怒鳴りながらのび太君の腕を掴むのを最後に、僕は部屋から出てしまったからだ。
目を瞑り、耳を塞ぎ――と言っても塞ぐ耳はないが――その場にうずくまった。
しばらく経つとママが勝手にしなさいと、はき捨てるように言いながら部屋を後にする。
実際は数分程度だったと思うが、それはとても長く感じた。
きっときつく叱られたのだろう、そう思いながらのび太君の様子を確認しようと中を覗き込む。
部屋の中はいつもとあまり変わらない、しかし寝具が散らばっているのとのび太君があまりにも不自然な姿
勢でありながら全く動こうとしないその様子に僕は唖然とした。
ドラえもん「のび太君……大丈夫?」
のび太「………………」
尚も返事はない。
ドラえもん「ちょっと、22世紀に行ってくるね……」
のび太「………………」
その日、僕は家に帰らなかった。
――もう嫌だ。
成績も上位を常にキープし続けている、運動だって頑張ってる。
学級役員もやって、2年になってからは生徒会役員にもなった。
けれど何だあのクズどもは。
授業中なのにろくに話も聞かずに居るくせに一人前に権利を主張してくる。
人の迷惑を好き好んで行うこともあった。
自分の主張や主観を強引に押し付けるやつさえいる。
そんなやつらの存在にも耐えられた。
だがなぜ僕は今朝あんなことをしたのか、自分でも分からない。
――学校の奴らが気に食わないから。
違う。
――勉強したくないから。
違う。
――家族に反抗したかったから。
違う。
――じゃあ何が不満なの?
……分からない。
けど1つだけ、今朝ママに言われて分かった。
結局はみんな同じなんだ。
――もう嫌だ。