そのことを妹に伝えると、彼女は「そっか」とだけ言い、
しばらくすると、荷物を丁寧にまとめ始めた。
こういうところは、異様にものわかりが良いんだよな。
バスターミナルまでは見送ることにした。
雪が結構ひどくて、あまり街灯もない道で、
妹一人で行かせるには心配だったからね。
隣と呼んでいいのかどうか分からないくらいの
絶妙な距離を保ちながら歩く僕たちは、
あいかわらず、終始口をつぐんでいた。
一周目だったら、手を繋いで歩いてたとこだよ。
妹は、僕のことを恨んでるんじゃないかと思ったな。
まあ、とっくに嫌われてるからいいけどさ。
それに、これから人一人殺そうって人間が、
誰にどう思われるか一々気にしてたら、きりがないよ。
バスターミナルの建物は老朽化してて、
壁や床はあちこち黒ずんで、蛍光灯は黄ばんで、
椅子のクッションは破れて中身が飛び出し、
売店には薄汚いシャッターが下りていた。
バスを待つ客も数人のみで、しんとしていた。
あまりにも陰鬱な感じがして、まるでここにいる皆が、
家出先から実家に帰るとこなんじゃないかって感じ。
「汚いところ」と妹は言った。「お兄ちゃんの部屋みたい」
「情緒があるよ」と僕は自分の部屋をフォローした。
僕と妹は、40cmくらい距離をとって椅子に座り、
カップ式自販機のココアを飲みながらバスを待った。