いやあ、実に悲しいもんだったよ。
娘に嫌われた父親って、こんな気分なんじゃないかな。
ところが、僕がドッペルゲンガー殺害計画を立て、
嬉々として殺害方法を考えていた夜、その妹が、
一人で僕のアパートにやってきたんだ。
僕のことが大嫌いなはずの妹がだよ。
ちょうど、初雪が観測された日のことだったな。
あまりに寒いから、やむなくヒーターを点けて、
懐かしい感じのする灯油の匂いが部屋に満ちて、
そのとき、部屋の呼び鈴が鳴ったんだ。
制服にカーディガンを重ねただけの格好の妹は、
白い息を吐きながら、僕の目を見ずに言った。
「しばらく、ここに泊めてちょうだい」
本人はその言い方をしたがらなかったけど、
妹のしていることは、いわゆる「家出」だった。
らしくないことをするな、と僕は思ったな。
たとえ家に不満があっても、家出のような
意味のない行動に出るやつには見えなかったし。
「どうやってここまで来たんだ?」と僕がたずねると、
妹は「どうだっていいでしょう?」と模範解答をした。
「汚い部屋」と妹は言った。「趣味も悪いし」
「嫌なら出てけ」と僕も模範解答をした。
一周目の妹だったら、苦笑いしながら掃除して、
美味しい料理でも作ってくれたんだろうけど。
妹だって、僕のところに来たくはなかったはずだ。
友人の少ない妹には、他に行く当てもないから、
やむを得なくここに家出してきたんだろうな。
まだ冬休みも始まっていないだろうし、
そんなに長くは滞在しないとは思うけど、
さっさと出て行ってくれないかな、と僕は思った。