後輩女「ただいま戻りました」パタン
男「……おかえり」カタカタ
後輩女「男先輩、お昼はちゃんと行きました?」
男「あぁ、煙草は吸った」カタカタ
後輩女「何か食べましたか、と訊いたんです。煙草は駄目です」
男「食欲が無い。それに仕事を中断するとまた朝みたいに駄目になる気がする」カタカタ
後輩女「ご飯くらい食べてください。今は何を? そんなに仕事溜まってるんですか?」
男「各生産拠点でマニュアルの書式が統一されてないから直してる」
後輩女「それって急ぎでは……?」
男「まったく無い」カチカチ
後輩女「はぁ……」
男「………………」カタカタ
後輩女「ヨーグルトとかなら、食べられますか?」
男「正直何も入れたくない。水もいらない」カチカチ
後輩女「わたしが何か買ってきます。男先輩は大人しくそれを食べてください」
男「……買ってくるのなら財布を渡そう……はい」
後輩女「男先輩、いくつか訊いて良いですか?」
男「何を訊かれても話さないよ」
後輩女「いえ、不調の原因ではないです。今回は男先輩の好みについて聞きたいです」
男「……俺の好み?」
後輩女「はい。わたし、男先輩がどんな食べ物が好きか知らないんです。男先輩の食べるものを買ってくるのに、好きなものを知らないのは
ちょっとまずいと思います」
男「好きな食べ物か……特に好きな物は無いよ。嫌いなのはトマトとレバー。それ以外なら大抵は大丈夫」
後輩女「好きな物も是非知りたいです。今度お弁当を作る際の参考にもしますので」
男「お弁当? そんなの彼氏にでも作ってあげなさい」
後輩女「だから彼氏なんていません! 男先輩に作るんです!」
男「俺に? ありがたいけど……」
後輩女「ありがたく受け取ってくださいね。それで、好きな食べ物ですが?」
男「………………」
後輩女「好きな食べ物、です」
男「好きな食べ物……そうだな、エビが好きかな。エビフライとかエビマヨ、エビチリ……」
後輩女「エビフライとかハードルが高いです。もう少しお手軽な料理を」
男「素直に答えたのに内容にクレームを入れるのは君ぐらいだろうね。本当に、来た時より図太く成長してくれたよ」
後輩女「男先輩の後輩ですから」
男「どういう意味だい?」
後輩女「ただいま戻りました」パタン
男「おかえり」
後輩女「エビマヨのおにぎりがありました。それとからあげ串とヨーグルトとお茶を」
男「ずいぶん買ったね。食べきれるかな」
後輩女「残さずどうぞ。ご所望なら『あーん』してあげます」
男「大変魅力的な提案だが遠慮しておこう。まだ介護はされたくない」ガサガサ
後輩女「わたしは自分で買った雪見だいふくを食べますね。一つ食べます?」
男「ヨーグルトを頂くよ……アロエか」
後輩女「もしかして嫌いでした?」
男「や、結構好きな方だ。てっきりプレーンヨーグルトを買ってくるものと思ってた」パカッ
後輩女「わたしがアロエヨーグルト好きなのでつい……でも良かったです。男先輩も好きで」
男「これを嫌いな人っているのかね?」
後輩女「別に苦くもないですし、おもしろい食感ですから……はむっ」
男「……ぎゅうひがCMみたいに伸びるね」
後輩女「むーっ! ひれないでふ……」
男「切れるまで見守ってあげるよ……なんだ、すぐ切れた」
後輩女「もぐもぐ……おいしいですよ? 一つ食べません?」
男「唇が粉で白くなってるよ」