後輩女「何も考えなくて良い……? 男先輩、いつも何を考えているんですか?」
男「何を……俺は……ゼィ、違う、何も、何も考えていない。仕事のことしか……ゼィ、仕事のことを考えてる」
後輩女「それは嘘です。仕事のことだけだったら、男先輩はこんな苦しそうにしません。品質管理のことならわたしにも話してくれるはずです」
男「違う、これは……俺だけのことだから。ヒュー、君に話す必要なんて、どこにも無い」
後輩女「これだけ答えてください! 仕事についてですか!? それともプライベートについてなんですか!?」
男「答えたくない……頼むから、ゼィ、これ以上は訊かないでくれ……!」
後輩女「………………」
男「頼む……頼むよ……ゴホッ」
後輩女「わたしがどれだけあなたを心配しているか……どうしてこんなに心配しているのか……わかってるはずですよね?」
男「……ゼィ……ゼィ」
後輩女「男……先輩……」
男「……くっ」ガタン
後輩女「あ……先輩、どこに」
男「……ゼィ、煙草に」
後輩女「また……ですか」
男「………………」バタン
後輩女(本当に何があったんだろう……? 朝からずっと苦しそうに沈んでる)カタカタ
後輩女(前は……それでも今日みたいじゃなかった……。何か会話のきっかけで男先輩の雰囲気が急に変わった……)カタカタ
後輩女(金曜日は……わたしについて話そうとした時。結局話してくれなかったけど……)カチカチ
後輩女(その前は、女先輩からの告白……急な話で吃驚して逆に冷静になったから、とも思ったけど……それは違うかも)カタ
後輩女(心の底の何か……深くて暗くて、それがなんなのかわかんない)
後輩女(わたし……何も出来ない?)
男「……ただいま」バタン
後輩女「あ……おかえり、なさい」
男「さっきは申し訳なかった。今は煙草吸って、少し落ち着いたよ」
後輩女「いえ……わたしも、答えたくないことを訊いてしまいました。済みません……」
男「いや……心配してくれているのは重々わかってる。でも、話せない。話したくないんだよ」
後輩女「それでもわたしは聞きたいです。聞いても何が出来るかわからないんですけど……」
男「大丈夫。君に迷惑は掛けない。だから、何も訊かないでほしい」
後輩女「……嫌です」
男「君も頑固だな」
後輩女「あなたの力になりたいんです。いつまでも教えられてばかりなんて嫌です」
男「力になんてならなくていい。俺には何もしなくていいから」
後輩女「そうやって一人で抱え込んで、苦しくなったらまた煙草ですか?」
男「あぁ……これしかないから」
後輩女「煙草で自分の身体を傷付けないで、わたしにぶちまけてしまうべきです。その方がきっと、あなたもわたしも楽です」
男「煙草で自傷行為をしてるわけじゃないよ。落ち着くんだ。ロングピースは二本も吸えば頭がくらくらして何も考えられなくなる。それを求めて
吸ってるのが大半だ」
後輩女「昔からそんな一時凌ぎの為に煙草を?」
男「誰かに話すよりはましだ……でも、君にはこんなに話してしまった。出来れば忘れてくれ。今後も話題に出さない様に……」
後輩女「そんな……ここまで話しておいて、忘れるなんて無理です。もし明日もその調子なら、わたしはずっと訊きます。毎日でも訊きます。
ウザがられても、嫌われても、話してもらうまでずっと訊き続けますからね!」
男「さっきは訊いたことを謝ってくれたのに、ずっと訊き続けるのか?」
後輩女「訊く度に謝ります。根競べで負けるつもりはありません」
男「……ふぅ、君はしつこそうだからな」
後輩女「わかっているなら初めから話すべきです。わたしはいつでも構いません」
男「いや、遠慮しておこう。……もうこの話は止めよう。仕事をしないと土曜日に行けなくなるよ?」カタカタ
後輩女「男先輩がそんな汚い人だとは思いませんでした」カタカタ
男「嫌いになったろう?」カタカタ
後輩女「全然です」カタカタカタカタ