男「あぁ……お腹いっぱいだ」
後輩女「ヨーグルトとおにぎり半分じゃないですか」
男「だから無理だって言っただろうに……」
後輩女「でも、少しだけ安心しました」
男「ん?」
後輩女「少しだけいつも通りの男先輩でした。受け応えとか、突っ込みとか」
男「そう……かな?」
後輩女「やっぱり、いつもと違う自覚があったんですね?」
男「………………」
後輩女「いえ、答えなくて良いです。済みませんでした」
男「君は律儀だな……こんな俺に」
後輩女「そんな男先輩だから、です。男先輩に何があったのかわたしには想像も付きませんが、現在の男先輩より先週までの男先輩の方が
わたしは好きです。早く戻ってほしいと思っていますから」
男「……申し訳ない」
後輩女「そう思うなら、話してくれるなり元通りになるなりしてください。わたしが夜に眠れなくなってしまいます」
男「そうか……ごめんな。こんな俺のせいで……」
後輩女「……やっぱりいつもの男先輩じゃないです。いつもだったら『添い寝してあげようか?』って言ってくれますから」
男「俺ってそんなキャラだっけ?」
後輩女「わたしの中ではそうです。添い寝してくれますか?」
男「考えておきます」
後輩女「………………」カチカチ
男「はい、出力です。いや、最大だと良品も飛びますよね? ……当たり前です。そこは範囲内で調節してください。後は原料の水分量が
低いとどうしても……調べてない? 調べてから問い合わせてください。何の為に開発が横にいるんですか? パイプはあるはずです」
後輩女(とっくに定時過ぎてるのに……)カチカチ
男「えぇ、えぇ、数字は? 大体ではなくて、重さを量ればわかるでしょう? やらずに問い合わせですか? ……もう良いです。生管に全部
報告してください。そこから情報を見て指示します。そもそもこれってまずは生管に報告する内容ですよね?」
後輩女(男先輩、いらついてる……?)
男「はい、失礼します」ガン
後輩女「………………」
男「………………」ガタッ
後輩女「男先輩? 煙草ですか?」
男「……あぁ。定時過ぎてるんだから君は帰りなさい」
後輩女「もう少し、男先輩といます。心配ですから」
男「喫煙所まで付いてくる気?」
後輩女「はい」
男「……好きにしなさい」
後輩女「はい、好きにします」
男「ふぃーっ」
後輩女「紅茶おごってもらっちゃって済みません」
男「構わないよ。どうせ金なんてろくに使わないから」
後輩女「さっきは木更津のKマネですか?」
男「あぁ。とんちんかんな人だ。生管に全部説明してもらうから君は何もしなくて良いよ」
後輩女「はい、了解です」
男「ふぅーっ」トントン
後輩女「……あの、煙草っておいしいですか?」
男「突然だな。興味でもあるのか?」
後輩女「男先輩が吸ってますから、多少興味はあります」
男「……おいしい時はおいしい。しかし気分が悪ければまるで味が違ってくる」
後輩女「一度だけ、吸ってみて良いですか?」
男「……いつもの俺なら止めただろうけど。吸いかけのロングピースで良いなら、軽く吸ってみるといい。ほら」
後輩女「えっと……どのくらい吸えば良いんですか?」
男「いっぱいは吸わない。二、三秒ゆっくり吸って、煙を口に含んだまま煙草を離して、今度は空気を吸う。それからふぅ、と吐く」
後輩女「や、やってみます」