<3/2・THU>
後輩女「もうほとんどいつも通りの男先輩ですね。月曜日が嘘みたいに」
男『君と話していると凄く楽だよ。でも、君の都合もあるからずっとは頼っていられない』
後輩女「わたしは大丈夫ですよ。だって……」
男『だって?』
後輩女「えっと……」
男『うん……どうした?』
後輩女(わたし……勇気無いな。はっきり伝えて断られるのが怖い……)
男『放送事故? 思い付いたことをパッと言えば良いんだよ』
後輩女「ちょっとまだ……もう少し、時間をください。必ず言いますから」
男『………………』
後輩女「ほら、男先輩も放送事故ですよ?」
男『今飲み物飲んでたから。もらったおにぎりも全部食べたよ。ありがとう』
後輩女「おにぎりだけじゃなくて、ちゃんとしたご飯も作れますよ。これでも料理は得意ですから」
男『何が得意なの?』
後輩女『お父さんが和食好きなので、煮物とか、白和えもよく作ります』
男『白和えをよく作るの? 今時珍しいね』
後輩女『入れるものを変えるだけでレパートリーが増えるので、わりと手抜きかもしれませんけど。食べたいですか?』
男『食べてみたいし、作ってる姿も見たいかな。いつもの君からはあんまり想像出来ないから』
後輩女「良いでしょう。家庭的なわたしを見て驚いてください」
男『そういえば聞いてなかったけど、明日のホテルは取れた?』
後輩女「残念ながらシングルが二部屋取れました。一関駅から少し遠いんですけど、近くに温泉のある旅館があります」
男『そっか。ありがとう。電話が終わったら泊まりの準備をしないとね』
後輩女「まだ準備してないんですか? わたしなんて昨日から枕元に用意してあるのに」
男『それは早過ぎ』
後輩女「先週からとても楽しみでしたから。でも何を持っていくか迷っちゃいました」
男『一泊だからそれ程いらないよね。俺は下着だけで良いかな』
後輩女「土曜日もスーツで行くつもりですか? 男先輩も私服にしてください」
男『スーツは荷物が減らせるから便利なんだよ。それに、私服はそれ程持ってないし』
後輩女「せっかくのデートなのに。男先輩も私服で行くべきです」
男『良いじゃない。俺なんて誰も見ないんだし』
後輩女「誰が見なくてもわたしが見ます。いつもと違う姿の男先輩が是非見たいです」
男『ネクタイ外してカーディガンで良い?』
後輩女「それじゃいつもと全然変わらないですよ」
男『俺の私服ってそんなもんだよ。君は?』
後輩女「土曜日のお楽しみです。朝一番に男先輩に見せますから、絶対コメントしてくださいね」
男『うん、楽しみにしてる。でも俺には期待しないでよ』
後輩女「嫌です。期待しています」
<3/2・FRI>
男「あぁ、もう新幹線来てるよ」
後輩女「自由席は空いてそうですか?」
男「だいじょう……ぶ、だと思う。うん、結構空いてる」
後輩女「良かった……間に合って本当に良かったです」
男「ずっとお弁当どれにするか迷ってたからね」
後輩女「そもそも男先輩が最初にカツサンドなんか選ぶからです。せっかく新幹線に乗るんですから駅弁を食べるべきです」
男「……今『カツサンドなんか』って言ったかい? 俺の聞き間違いだったらスルーするけど」
後輩女「言いま……いえ、言ってません。そんなこと言ってませんです……」
男「そ。俺はこの辺に座るよ」
後輩女「別々で座らないで、三列シートに一緒に座りましょう? その方がお話しやすいです」
男「ぼーっと景色を見たり、寝たりしないの?」
後輩女「そんなのもったいないです。それに、男先輩のお弁当も少し頂きたいですし」
男「あぁそうか。結局食いしん坊さんの君が食べたい弁当を二つ選んだからね」
後輩女「食いしん坊さんは止めてください。店員さんにも笑われて恥ずかしかったです」
男「事実だろう?」
後輩女「むー、意地悪。そんなにわたしをいじめたいんですか?」
男「煙草吸いたいな……これ喫煙車両無いんだよなぁ。ホームの喫煙所は遠いし」
後輩女「ほら、もう出発しますって。時間が無いですから諦めてください。良い機会ですから煙草を止めてしまいましょう」
男「それは嫌だ……くそぅ、君の所為だ。駅弁選ぶのにあんなに時間をかけるからだ」
後輩女「わたしに意地悪した罰ですね。神様はちゃんと見ているようです」