後輩女「どうしたんですか?」
男「携帯が……鳴ってて」
後輩女「メールですか?」
男「……いや、電話だ……」
後輩女「……出ないんですか?」
男「………………」
後輩女「……男先輩? わたしは良いですから電話に出てください」
男「うん、出るよ……はい」
後輩女「………………」
男「あぁ……久しぶり。いや、大丈夫。あぁ……あぁ……」
後輩女(なんだろう……すごいドキドキする……胸が苦しい)
男「そうか……あぁ、聞いたよ。……いや、覚えてない。申し訳ない……いやいい。お前から謝って――」
後輩女(誰から? 不安で気持ち悪い……)
男「……あぁ、ゼッ、この前はごめん。突然だったから……うん……そうか」
後輩女「……?」
男「ゼィ……いや、覚えてない。あぁ、ごめん。メモしてなくて」
後輩女(何……? 何の話をしてるんですか……?)
男「本当に覚えていなくて……う……ん……わかった。ヒューまだ、予定がわからないから。あぁ、じゃあ返送はするよ……あぁ、また」
後輩女「どうしたんですか……?」
男「………………」
後輩女「男先輩……?」
男「……ハァ……ゼィ」
後輩女「男先輩……また……」
男「はは、突然過ぎて……ゼィ、日にち覚えてなかったみたい」
後輩女「落ち着いてください。話すのはそれからで良いですから」
男「ゼッ……だめだよ」
後輩女「え?」
男「話せないよ……君にだけは、ヒュー、話せないよ……」
後輩女「どうして……? どうしてわたしには話せないんですか? 何があなたを苦しめてるんですか!?」
男「俺は……ゼィ俺は……」
後輩女「男先輩……」
男「だめだ……ゼィ、だめだから……俺が……俺の……問題だから……」
後輩女「……っ」
男「っ!! 何を――」
後輩女「今は何も話さないでください。落ち着くまで、わたしに抱かれていてください」
男「……ゼィ……ゼィ」
後輩女「苦しくなくなるまでこうしてます。大丈夫だから。わたしを信じてください……」
後輩女「もう落ち着きました?」
男「……あぁ」
後輩女「お茶でも入れましょうか? ホテルにあるものですけど」
男「……この前電話があった後も、こうやってうずくまってた様な気がする」
後輩女「ホテルの床は案外綺麗じゃないですから、ベッドに来てください」
男「………………」
後輩女「こっち、こっちです」ポンポン
男「………………」ノロノロ
後輩女「また、抱きしめますか?」
男「いや……」
後輩女「わたしが抱きしめたいです。もっとこっちに来てください」
男「………………」
後輩女「ん……男先輩の髪って、少し茶色いんですね」
男「本当は君に甘えてはいけないのに……俺は……弱い人間だ」
後輩女「もっと強く腕を回しても大丈夫ですよ。女の子だってそんな簡単には壊れませんから」
男「君に話したい……でも、話したくない……」
後輩女「朝まではまだまだ時間はあります。あなたのタイミングで良いから」
男「何で……君はそんなに俺を……」
後輩女「わたしは好きじゃない男の人を抱きしめられる人間じゃないです。あなたのことが一番好きだから……」
男「………………」
後輩女「だから、あなたが話してくれたら嬉しい。わたしはそれまで待ちますから……もっと強く抱いて良いですよ」
男「この前……」
後輩女「はい」
男「……大切な人から電話があった」
後輩女「え……?」
男「……大切な人が、今度……け、結婚、するんだって……」
後輩女「………………」
男「もう何年になるだろう……二十年近い。出会ってから、それくらいになる人……」
後輩女「幼馴染ということですか?」
男「……そこまで、幼い頃からじゃない。小学生の頃からの同級生……」
後輩女「……女の人、ですね?」
男「うん……そう。可愛い人なんだ。昔は病弱で、肌が白くて、大人しい子供だった。いつも『ごめんね』って謝られてた」
後輩女「……好き、だったんですか?」
男「……少し、違う」
後輩女「………………」
男「今でも、好きなんだ……」