女『男くん、今日もごめんね』
男『大丈夫。これ、今日のプリント。わからないところがあったらまた訊いてよ。休み時間でも放課後でもいつでも教えるから』
女『うん……でも、男くんが遊べないよ?』
男『良いんだよ。俺の復習にもなるから。遠慮なんてしなくて良いからさ』
女『ごめんね、男くん。私、頑張って毎日学校行けるようになるから』
男『無理はしない方が良いよ。勉強なんて後からでもどうにでもなるし』
女『違うの……男くんに迷惑、掛けてるから』
男『迷惑だなんて思ってない。だから、良いんだよ』
女『……ごめんね。ほんとに、ごめんね』
男『謝らないでって、いつも言ってるでしょ? 君は気にしないで良いから』
後輩女「昔から優しかったんですね。小学生の頃って、一番男女が素直になれない年頃なのに」
男「単純に下心があったから。同級生にからかわれても、彼女が休んだ日はいつもプリントを届けに行ってた」
後輩女「家は近かったんですか?」
男「近いといえば近かった。でも、例え遠くでも届けに行こうとしてたと思う」
後輩女「それぐらい……」
男「あぁ、その頃から好きだった」
女『男くん、部活とか入らないの? もう仮入部期間は終わったんでしょ?』
男『あぁ、でも入りたい部活も無いし、今まで通り君と話したりする方が楽しいかな』
女『私とお話してもつまらないよ? ずっと寝てるだけだから、お話出来ることも無いし……』
男『つまらなくなんてない。君が話せることが無いなら、俺が話すから。それで、たまに君の考えを聞かせてよ』
女『なんか……ごめんね。いつも気を使わせて……』
男『気なんて使ってないよ。俺がしたいだけだから、君が謝ることじゃない』
女『うん……』
男『君は部活はどうするの?』
女『え? だって週に二、三日しか行けないから……それじゃ入っても意味無いし。学校行けても早退するかもしれないし……』
男『そうかな? 美術部とか、こつこつ作業するようなところなら週に一日でも良さそうだよね。夏休みとかも体調が良い日に行けば完成すると
思うけど』
女『でも……私、絵とか上手くないし』
男『あとは写真部とかあったかなぁ……どこにも仮入部してないからイマイチ把握してないんだよね』
後輩女「男先輩は部活は何も?」
男「あぁ、入ったこと無い。だから運動も何も並以下だ」
後輩女「何でも出来る万能な人だと思ってました」
男「買い被らないでくれ。俺は何も出来ない」
後輩女「何も出来ないなんて……」
男「本当に、何も……」
女『男くん、高校って決めた?』
男『君は?』
女『私が訊いてるんだよ? 先に答えて?』
男『うーん、どこでも良いと思ってるからね。近場のT高校かなぁ』
女『え? 男くんならW高校でも行けると思うけど……偏差値20くらい低いところだよ? 正直私くらいの学力の人の学校なのに』
男『電車で一時間半もかけて通うより、自転車で十五分の方が楽だからね』
女『そんな理由なの? もったいないよ。せっかく成績良いのに』
男『高いレベルの授業じゃなくても大学はきっと行けるし、足りなければ自分で勉強するよ』
女『男くんならそうかもね……将来の夢とかあるの?』
男『夢か……そうだね、幸せな家庭を築くことかな』
女『……何か中学生の夢じゃないね?』
男『そうかな? 好きな人と一緒にいることって、素敵なことだと思うんだよ』
女『……ね、男くんは好きな人とかいるの?』
男『え……?』
後輩女「それで……伝えたんですか? 好きって」
男「伝えられなかった。言う勇気が無かった。その時の関係を壊したくなくて……」
後輩女「わたしだって同じです。昨日までのわたしには男先輩に素直に告白する勇気がありませんでした」
男「俺と彼女は、その時で五年以上の付き合いだったはずだ。それで言えなかった……本当に、臆病だった。だから……」