男「今日はいつにも増して絶好調だけど、何かあった?」
後輩女「そうですね、何かありました」コロコロ
男「訊いても良い内容?」
後輩女「この楽しい時間の前に楽しくないことが起きましたから。きっと爆発しちゃっているんでしょう」コロコロ
男「女先輩?」
後輩女「……はい」コロ
男「何か気に入らない? 彼女には俺もお世話になってるし、君にも良くしてくれていると思っているけど」
後輩女「……ちょっと苦手なんです。女先輩って賑やかじゃないですか。わたし、基本的にその対極にいますから」
男「さっきまでの君も女先輩と同じような感じだったけど?」
後輩女「………………」
男「ごめん、茶化すところじゃなかった」
後輩女「いえ、良いんです。昔からガーッて来られると引いちゃうんです。でも、わたしも話が合う相手には結構ガンガン
話しかける人間というか、信頼出来る相手には……」
男「それは先輩冥利に尽きる話だよ。特にこのチームは二人だから、お互いに信頼関係が無いとやっていけないよ」
後輩女「男先輩は、わたしのこと信頼してくれていますか……?」
男「当然。仕事ぶりも性格も全部含めて、去年の四月に君が来てくれて良かったと思ってる」
後輩女「……良かったです。そう思っていて頂いて」
男「実はね、君のポジションには女先輩が来るかもしれなかったんだ」
後輩女「それは……初耳です」
男「うん、品質管理部の現部長と、前部長と俺しか知らないと思う。現部長が俺の元上司だったのは知っているよね?
今は俺がチーフながら課長みたいにやっているけど、去年現部長が課長から昇進する際に代わりの適任がいなかったんだ。
その時に課長無しのダブルチーフで……という案もあったんだけど、俺が却下した。女先輩は生産管理部のエースだから、
抜けられたら向こうが困る」
後輩女「理解出来ます。生産管理部からの情報はまず女先輩からですから」
男「課長の適任者がいなかったというのも厄介な話でね。営業とか開発とか購買とか、そういう部署に比べると品質管理部は
華が無い。人気が無いから品質管理の仕事がすぐ出来る人なんてごく僅か。拠点のライン管理から引っ張るにしても、
またそのポジションも人気が無い。代わりの人が見つからない。だから、新入社員を初めから入れてしまおうと……」
後輩女「その時にちょうどわたしが品質管理部を希望していた、と?」
男「そう。幸いそっち方面を専攻していたみたいだから半分即戦力として見てた。始めからスパルタで申し訳なかったけど、
しばらくしてこの子は喰らい付いてくると感じたよ。今となってはいつ独り立ちしてもおかしくないくらいに成長した。
まだ一年も経っていないのに、ね」
後輩女「そんな……わたし、まだまだです」
男「うん、まだまだ足りない部分はある。経験とか周囲との連携とかね……でもそれは時間が経てば自然と身につくもの。大丈夫。
俺は小さかった雛が大きくなっていく様子を見ているのが楽しいから、異動しろって言われても『まだ嫌です』って答えるよ」
後輩女「それだと昇進に響きませんか?」
男「じゃあ異動して良いかな?」
後輩女「駄目です。男先輩はまだまだわたしと仕事をするべきです」
男「即答だねぇ。さっきの心配はなんだったんだろう?」
後輩女「電波じゃないですか? 一度病院で検査を受けるべきです」
男「そこまで言うかい……」
後輩女「主に肺の検査を」
男「肺はもう良いって。きっと真っ黒だよ」
後輩女「全部切り取ってわたしのを分けてあげましょうか?」
男「遠慮しておきます。手術とか考えるだけで身体がちくちくしてくるよ」
後輩女「わたしも鳥肌が立ってきました。上着を着ます」ゴソゴソ
男「飴ちゃん舐めよ」ガサガサ
後輩女「わたしももう一つ頂きます」