「私は香澄といいます。……純子という人の、娘です」
「じゅ、純子……ということは……」
「はい。――あなたの、孫ですよ、お爺さん」
お姉さん……香澄さんは、にっこりと笑っていた。
「……」
「……」
お爺さんの家では、微妙な空気が流れる。
香澄さんが来てから、お爺さんたちの様子がどこかおかしい。
よそよそしいというか、落ち着きがないというか……
香澄さんの話からすると、香澄さんのお母さん――純子さんという人が、お爺さんの娘さんだろう。
でも気になるのは、香澄さんの言葉……。あれはまるで、これまで一度も会ったこともないような言葉だった。表情だった。
……何か、複雑な事情があるのかもしれない。
「――香澄さん!お茶をお持ちしました!」
「あ……しんちゃんありがとう」
「いいえ!香澄さんのためなら!」
……しんちゃんだけは、いつものしんちゃんになっているけど。
「……佳澄」
沈黙していたお爺さんは、静かに口を開いた。
香澄さんは、お爺さんの方を見る。彼女が見つめる中、お爺さんは少しだけ躊躇しながら切り出した。
「……純子は、元気なんか?」
「……はい。とても」
「……そうか……」
お爺さんは、それまでの気難しい表情を一変させた。とても朗らかで、慈愛に溢れた表情だった。
それはお婆さんも同じだった。お爺さんの後ろに座っていたお婆さんは、下を向きながらも嬉しそうに頬を緩めていた。
それから3人は、また口を閉ざした。
それでも室内は、とても心地よい空気で満たされる。とても落ち着く、優しい匂いがしていた。
それからしばらくして、香澄さんは帰り始めた。
「もう少しゆっくりしていかんね……」
お婆さんは、名残惜しそうに呟く。しかし香澄さんは、笑顔で言葉を返す。
「いえ……あまり遅いと、母が心配しますので。それに、お爺ちゃん達の姿を見れただけで、私は満足ですし」
それを聞いたお爺さんは、微笑みを浮かべた。
「……そうか。気を付けて帰ろよ」
「はい。……では……」
一度会釈をした香澄さんは、そのまま家を後にした。
彼女の背中を見つめるお爺さん達。よく見れば、お婆さんは涙を浮かべていた。
そんなお婆さんの表情をしたしんちゃんは、少し黙った後に、靴を履き始める。
「……オラ、お見送りするぞ」
彼女の後を追うように、しんちゃんは家を飛び出す。
(あ!待ってよしんちゃん!)
僕もそれに続いた。