「あ、ありがとうしんちゃん……。――この家の人に、言っててくれない?」
「ほうほう。なんて?」
「――帰りたい、人がいます……それだけでいいから」
「……ほう」
「お願いね。じゃあ……」
それだけを言い残し、女性は去って行った。
普段ふざけてるしんちゃんも、なぜだかそのまま見送っていた。
その日の夕方……
「……若い、女の人?」
「そうそう。家に来てたぞ」
夕ご飯を食べながら、しんちゃんは昼間のことをお爺さんに話していた。
そして……
「そう言えば、言っててほしいって言ってたぞ」
「なんて?」
「帰りたい人がいるらしいぞ」
「帰りたい、人……」
「お父さん……まさか……」
お爺ちゃんとお婆ちゃんは、何かを考え始めた。
何か心当たりがあるのだろうか。
悲しそうな表情をする二人だったが、どこか安堵感も感じる。
それから二人は、黙々とご飯を食べた。
しんちゃんもご飯を食べた後、彼らの気持ちを悟ったのか、特に何も言うことなく就寝した。
次の日。
この日は、お爺さんは朝からずっと家にいた。
朝から畑に行くのが日課と言っていたのに。
誰かを、待ってるのだろうか。
あぐらをかく足は、小刻みに貧乏揺すりをしている。
どこか落ち着かない様子で、しきりに時計を見ていた。
「――ごめんください」
玄関から、女性の声が響く。
来たか――
そう呟いたお爺さんは、足を手で叩き、立ち上がる。
そして、お婆さんが見守る中、玄関に向かった。
「――どちらさん」
お爺さんの声に、僕としんちゃんは玄関の方を覗き見る。
そこにいたのは……
(昨日の、お姉さん?)
お姉さんは、お爺さんの顔を見て笑みを溢した。
「……やっぱり、似てますね。すぐに分かりました」
「……あんたは……」