……たぶん、しんちゃんは僕と同じことを思い浮かべているはずだ。
お爺さん達と純子さん……この親子に、何があったのか……。
それは興味本意かもしれない。
だけど、どうしても知りたくなった。そしてその気持ちは、たぶんしんちゃんの方が強いと思う。
だって彼は、さっきまでの緩い顔とは全く別の顔をしていたから。
太陽の光が降り注ぐ畦道を、しんちゃんと僕は走って行った。
香澄さんに、追いつくために……
「――お姉さん!」
「あら?」
しんちゃんの呼び掛けに、香澄さんは後ろを振り返る。その場に屈み、駆け寄るしんちゃんを迎えた。
「どうしたの?しんちゃん?」
「あ、あの……!」
「ん?」
しんちゃんは荒くなる息を必死に整えていた。
そして一度大きく深呼吸した後、声を大きくする。
「……お送りするぞ!」
その言葉に、香澄さんは頬を緩めて優しく微笑む。
「……お願いするね、しんちゃん」
「――そっか……しんちゃん、家出してるんだ……」
しんちゃんは歩きながら香澄さんに話していた。
「はい。今の自分を見つめ直そうかと思いまして」
キリリと表情を引き締めてしんちゃんは語る。
それを見た香澄さんは笑っていた。
「誤魔化さないの。……それって、抵抗なの?」
「抵抗?なにそれ?」
「今の自分に出来る、最大の抵抗ってことよ。何かを訴えたいけど、相手は分かってくれない。だから行動を起こして、自分のことを見てもらおうとする。分かってもらおうとする。
……それが、抵抗よ」
「……難しくてわかんないぞ……」
「ごめんごめん。子供にはわかんないよね。――私のお母さんもさ、そうなんだ」
「お姉さんの、母ちゃん?」
「そうそう。私のお母さんね、お父さんとの結婚、お爺ちゃんに反対されてたんだ。
当時お父さんとお母さん、とっても若くてね。そんな年じゃ、結婚なんて無理だって言われたらしい。
お爺ちゃんとお母さん、凄くケンカしたんだって。それで最後には、お母さんが家を出ていったんだ」
(家出……)
「お爺ちゃんとお母さん、とっても似てるんだ。二人とも、とっても頑固。結局これまで、ずっと顔も合わせなかったし、連絡もしなかったんだ。
……でもね、時々お母さん、凄く寂しそうな顔をするんだ。私の入学式、卒業式、誕生日……きっとお母さん、お爺ちゃんに色々見せたかったんだと思う。
変な意地ばっかり張って……本当、素直じゃないんだから……」
そう話す香澄さんは、やっぱり笑っていた。
でも、どこか寂しそうな笑みだった。
「……ところで、どうしてしんちゃんは家出したの?」
香澄さんの言葉に、しんちゃんは表情を暗くした。そんな彼の表情に、香澄さんも何かを悟ったのかもしれない。何も言わず、歩く彼の姿を見つめていた。
「……父ちゃんと母ちゃん、オラのことなんてどうでもいいんだぞ」