俺の目の前で母親は女の子に追い付き、しっかりと手を握った。
到着案内板が点滅し、電車の近付く音が聞こえてきたので俺は立ち上がろうと…
そのとき、その母親が女の子の手をぐいと引っ張りホームから消えたんだ。
いや、あまりに一瞬のことで訳も解らず俺はホームを見回す。
確か、非常停止ボタンがどこかに…ダメだ、間に合うわけない!
こうなったら俺が飛び降り、親子をホーム下に押し退けるんだ、うん、それしかないっ!
『あんた、何してる!』背後から声が。駅員だった。『お、女の人とこ、子供が今飛び込んだんですっ』
焦って噛みまくる俺。そこへ電車が入ってきた。あぁ、遅かった。
涙が溢れる俺。身体の震えが止まらない。
俺の顔を黙って見ていた駅員が言った、『私も初めはびっくりしたもんでしたよ。』